岐路に立つ被災地の「仮設商店街」 迫る退去期限、新設への移転進まず
復興需要に頼らず離れた地元の客を取り戻す
宮城県の調査によると、2016年10月時点で県内の仮設商店街で営業する302店舗のうち、262店舗が営業継続を希望していますが、そのうち約42%の111店が「再建方法は未定」と回答。その理由として、復興の遅れなどで再建場所の確保が困難である事や、売り上げの回復が見込めない事をあげています。 宮城県南三陸町の「さんさん商店街」は、2012年2月にオープン後、年間で20~40万人もの観光客などが訪れる人気スポットでした。2016年12月に仮設商店街は閉鎖、沿岸のかさ上げされた地域で新たに常設の「さんさん商店街」が建てられ、今年3月3日に再オープンしました。 しかし、仮設店舗から常設店舗へと移転したのは32店舗のうち23店舗。地元で長く親しまれた「豊楽食堂」は、常設店舗には移転せず休業する事を選択した一軒です。仮設の「豊楽食堂」を切り盛りしていたのは、岩田大さん(29)。仙台で板前修行をしている身でしたが、祖母が仮設商店街で店を再建するのを機に、祖母の店の厨房に入り腕を振るってきました。 「移転の話がなければもっと続けてたかもしれませんが、自分の力不足です。テナント料などの関係もありますけど、自分の場合は、もう一度ちゃんと腕を磨きたいと思ったんです。このまま観光客とか復興関係者で賑わってる状況が続くとは思えない。未熟な自分を支えてくれた商店街の人たちや、『店を再開するときにはまた来るよ』と言ってくれたお客さんたちを裏切らないためにも、ちゃんと腕を磨きたいです」 震災前は街の中心地にあり、ほどんど地元の人だけが利用していた「豊楽食堂」でしたが、震災後は地元の人たちが離れてしまったと岩田さんは実感しています。だからこそ、地元の人たちに親しまれるような店をもう一度南三陸で再開したいと決意を語ってくれました。
地域が復興しなければ商店も再建できない
仮設住宅とは異なり、多くの仮設商店街は、土地の所有者が返還を求めたり、区画整理などの都合で立ち退きを要求されたりしない限り、行政の判断次第で延長可能です。その一方で、仮設商店街を撤去する際の費用を国が負担する期限が最大で7年半と限られています。 復興庁の担当者によると、仮設商店街の撤去費用には、数百万から数千万円かかるといいます。そのため、結果的に多くの仮設商店街がこの春から2年以内に撤去することになるのです。自治体や中小機構としても、地元の復興状況などを十分に考慮して、無理のない退去を求めていますが、その一方で、被災店舗の「自立」のためにも、他の再建支援などを積極的に活用するよう促しています。 久之浜の「浜風商店街」でも、3月末ですべての店舗が退去する方針となっているものの、各店舗の再建状況などを様子を見ながら閉鎖していく見込みです。「はたや」の遠藤さんはこう話します。 「これまではあっという間の6年間。でも、店を再建して久しぶりに来てくれたお客さんの顔とか見ると、お互いに年取ったなって。6年間はやっぱり長い時間です。今までは原発作業員の人たちや観光客の人たちが来てくれたけど、これからは久之浜が魅力ある地域になるようにしないと。お年寄りが元気に暮らして、震災や原発事故で地域を離れた若い人たちが戻ってこようかなって思えるようにね」 被災地の生活圏を復興させるために欠かせない商店主たち。しかし、地域が復興しなければ商店主たちも再建できないというもどかしさを抱えるなかで、新しい岐路に立っています。 (フリーランス編集者/渡部真)