化学物質過敏症どうやって見極める? 重症アレルギーだと誤診されやすい理由と過剰治療の危険性
重症薬剤アレルギーの場合
重症薬剤アレルギーだと診断されて訪れてくる患者さんの中にも、実は化学物質過敏症であったという方が数多くいます。 例えば、細菌感染を起こした時に治療に用いる抗菌薬は、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、ニューキノロン系といった分類がされています。各分類は、化学構造的に似通った仲間であり、それを「系統」とも表現するので、「~系」といった言い方をしているわけです。 これらの系統の中で、ペニシリン系の抗菌薬だけに皮膚の赤いブツブツといったアレルギー反応が出たが、他のマクロライド系やニューキノロン系の薬剤にはアレルギー反応が出なかった、あるいは、イブプロフェンなどの解熱鎮痛剤を飲んだら蕁麻疹が出たというのが通常の薬剤アレルギーの症状です。 ところが、ペニシリン系に限らず、「あの系統もダメ、この系統もダメ、もう使える薬がない!」といった状況の患者さんは、化学物質過敏症であると考えるのが妥当です。 アレルギー反応は、アレルギーの原因物質であるアレルゲンと、それに反応する抗体や免疫細胞の相互作用で症状が誘発されるものであることは先述しました。この反応は、薬学的には系統立っているものです。 つまり、ある似た構造を持つ特定の系統の薬だけがダメというのが薬剤アレルギーなのです。この抗菌薬もダメ、この鎮痛剤もダメ、このアレルギーを抑えるはずの薬もダメといったような、薬学的に似通っていないさまざまな薬に反応してしまう薬剤アレルギーというものは存在しません。 ただし、反応する薬剤が系統立っていないように見えていても、添加物に反応している場合があるので注意を要しますが、こうしたケースは稀です。 「あれもダメ、これもダメ、医者もお手上げ」の薬剤過敏の患者さんは、化学物質過敏症の可能性を疑うべきです。
重症食物アレルギーの場合
薬剤アレルギーと同様に、「あれもダメ、これもダメ、もう食べられる食材がない!」といった食物アレルギーの患者さんはごく稀です。食物アレルギーもアレルゲンとなる食材と抗体・免疫細胞との反応であるため、食べられない食材同士は化学的にも似たタンパク質を持っているからです。 反応する食材が比較的多岐にわたる食物アレルギーに、「花粉食物アレルギー症候群」があります。これは、スギだけでなく1年を通してさまざまな花粉にアレルギー反応が成り立つ(感作される)ことで、さまざまな果物や野菜に反応して、口がかゆい、唇が腫れるといった症状があらわれます。 この疾患も、植物である花粉と、植物である果物や野菜が似通ったタンパク質を持っているから反応してしまうというメカニズムであり、化学的な構造も似通っている部分があります。 「野菜もダメ、魚も肉もダメ、パンも牛乳もダメ」といったように、共通点のないもので症状が出る患者さんがいたら、その人は重症食物アレルギーではなく、まずは化学物質過敏症を疑います。 外的な要因に体が反応した時、「アレルギーの呪縛」のような思い込み(バイアス)から抜け出せずにいる多くの患者さんや医療従事者がいます。 医療従事者でさえ、「これは、一般的なアレルギーじゃないよな……。でも、いったい何の疾患なのか?」と悩む日々を過ごすこともあります。 化学物質過敏症なのに重症アレルギーと診断されてしまい、それによって適切な治療が受けられず、何年も苦しむことになった患者さんにも出会ってきました。世の中には多くの難病があり、稀な疾患であるほど初期の段階ではすぐに確定診断がつかない場合があります。 誤診に限らず、「診断遅延(diagnosis delay)」を可能な限りなくすのが、すべての病に対する理想です。患者さんの苦しい日々をより長くしてしまうのみならず、間違ってつい病名のもとで「過剰治療(over treatments)」に進んでしまい、そのことで有害事象(副作用や副反応)に悩む患者さんがさらに増えてしまう危険性も生じてしまいます。 *1 谷口正実「NSAIDs 不耐症/アスピリン喘息(AERD)における病態解明の進歩と臨床的側面」『医療』第74巻第10号(428-436)、一般社団法人国立医療学会、2020年 図/書籍『化学物質過敏症とは何か』より 写真/Shutterstock
---------- 渡井健太郎(わたい けんたろう) 2010年、熊本大学医学部卒業、順天堂大学大学院にて医学博士取得。国立病院機構相模原病院アレルギー・呼吸器科に勤務後、アレルギー科医長を経て2022年より現職。相模原病院臨床研究センター客員研究員を兼務。日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。 ----------
渡井健太郎
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