ミルクボーイ(2)M-1優勝で仕事急増のはずがまさかの事態に…未曾有の出来事が及ぼした影響とは?
M―1優勝の直後に世界を襲ったコロナ禍。もっとも仕事が増えるはずだった時期に、外出が極端に制限されるという悲劇が2人を襲った。しかし、それを前向きにとらえ、さらに自分たちの足下を見つめ直し、現在もミルクボーイは大阪をホームに活動を続けている。 【ミルクボーイインタビュー(2)】 ◆◆ 家で着替えて、出演して、また着替えて寝る日々 ◆◆ ―確かに、一番仕事が入るM-1優勝直後にコロナ禍突入はかなり痛い状況ですね。 内海「漫才ができんくなりましたからね。本来ならテレビも出て、もちろん劇場も出てという感じだったと思うんですけど、結局そういうのがほぼなくなりました。でも、リモートでめざましテレビに出るとかになって、家に何か機材が送られてくるんです。自分でセッティングして、朝5時ぐらいに起きて、衣装着替えて、めざまし出るみたいな。終わったら着替えて、別に仕事ないんで、家で寝るって感じでした。東京行くときもあったんですけど、外出自粛とか言ってるから、車両にぼくら2人しかいないときもありました。ほんま、意味わからんかったです」 駒場「でも、M-1優勝がなかったら、ほんまに仕事なんもなかったので、助かりましたけどね。コロナで残念やったなっていうよりも、まだあったし良かったと思います。ただ、打ち上げとかもないじゃないですか。だから、先輩との付き合いもないから、何も誰にも教えてもらえない。あそこ、こうやった方がええとか、多分普通はあったと思うんですけど。新番組始まっても、スタッフさんとご飯も行ったことなかったです。だから何が合ってんのか、間違ってんのかわからんまま進んでいった感じでしたね」 ―東京ではなく、現在も大阪を主戦場にされていることに、コロナの影響はありましたか? 内海「元々、NGKで漫才やりたいというのは、M-1で優勝する前から言ってました。ただ、最初は東京へ行くもんやという思いもありました。先輩とかも“すぐ来た方がいい”って言ってくれてたし。東京にはめっちゃ行ってました。大阪にも仕事があるんで、5日連続新幹線始発とかもありましたね。でも、コロナでいろいろ考える時間はありましたね。そのうえで、NGK出ることにこだわりたいという思いを優先させたという感じです」 ◆◆ 大阪拠点王者はその後出ず「ちょっと悲しい」 ◆◆ ―そのM-1決勝がまもなく開催されますが、最近の傾向として関東のコンビがかなり多いですね。 内海「僕ら以降、大阪からチャンピオンは出てないんですよね。それもね、ちょっと悲しいです。この前はさや香がね、もうちょっとでしたけどね」 ―歴史を重ねて、参加者もすごい数になって、レベルも相当上がっているからか、SNSでも「なんであのコンビが落ちて、あっちが合格やねん」というような声も昔より目立つようになりました。芸人さんでも審査方法に疑問を投げかける発言をされる方もいますし。その点はミルクボーイさんはどうお考えですか? 内海「おもしろかったら誰が審査員でも問題はないと思いますけどね。もちろんぼくらも落ち続けてきたから、なんでやねん!とは毎年思ってました。でも、結局はなんかケチつけられる部分があったんやなって。決勝行った時は、ほんまにそういうのを省いたんです。万人が分かる、万人が面白いと思うものにしようとネタ作ってました」 ―普通の舞台と賞レースで作り方に違う部分とかはあるのでしょうか? 内海「そこはね、ぼくら芸人なったときからM-1とかあったんで、漫才というものは賞レースでやるもの、みたいな感じはありました。それでも、優勝して泣いたりとか、駒場がアナザーストーリーで号泣したりとか、そういうのは自分の達成感というものではなくて、周囲を巻き込んでいたからだと思うんです。親とか親戚とかお世話になった人とか、芸人やってるとは言うけど誰も名前も知らんという状態をみんなに背負わせていて、それがようやく全部報われて、なんか申し訳なかったし、そんな人たちの顔が浮かんで、良かったってなったんですよね」 ◆◆ 内海、朝ドラ俳優になる! ◆◆ ―そんな内海さんがまさか朝ドラ(「おむすび」ヒロイン実家の散髪屋常連役)デビューされるとは思いませんでした(笑い)。 内海「びっくりです。緊張しましたけど。台本もらって、なんとなく覚えていってたんですけど、すぐテスト始まって、本番になって、なんとかできたって感じでした」 ―演技は興味ある? 内海「いやいや、ないです。できないです。全然もう出たないです。恥ずかしいです。全然できないです」 ―ものすごい否定しますね(笑い)。 「とりあえず1回やったんで、2回目はちょっとリラックスできました。でも、慣れへんし、勝手がわからんのですけど。ただ、髪の毛を切ってくれる役の北村有起哉さんとか緒形直人さんとか、ぼくらのこと知ってくれてて、けっこうしゃべりかけてくれたので、ようやく最近落ち着いてやれるようにはなってきました」 駒場「ぼくはこれまで朝ドラはほとんど見たことがなくて、相方が出るから見るようになったんですが、たぶん“ふたりっ子”以来ですね」 ―ふたりっ子?(1996年10月スタート)ほとんど30年前ですね(笑い)。 駒場「でも、やっぱ朝ドラって普通におもろいです。なんか親子の感じの話とか普通にええ話やなって思うし。普通に感動できるし。これは見るべきやったな、おれの30年が…と思いました」 ―(笑い) 駒場「内海が出てきたら、おー!とは思いましたね。でも、なんかそのままの内海が出てきた感じでおもろかったです」 内海「いやいや、演技とかでけへんからね(笑い)」 【取材を終えて】ミルクボーイについて、とやかく言う芸人は聞いたことがない。漫才芸人最高峰の栄誉を獲得してもピュアで飾り気のない姿勢。きっと誰もがその人間性にリスペクトしているからなのだろう。 そのM-1という大会は年々参加者が増え、年々注目度も高まり、SNSの広がりも相まって合格基準や運営方法にも雑音が増え始めた。ただ、やはり王者の言葉は重い。「ケチつけられる部分がなく、万人が面白いと思ったら優勝するんじゃないでしょうか?」 難しく考える必要はない。結局、会場を最も沸かせられるヤツが一番強い。そんなプリミティブな気持ちで今年もM-1を見るとしよう(江良 真) ◇【お笑いブーム】12月12日なんばグランド花月(NGK)。「漫才ブーム」で全国ツアー中の4組に、お笑いコンビ「ななまがり」がゲストで登場。また、来年の「漫才ブーム」で訪れる都道府県がこの日の公演で決まる。19時開演(チケット前売り4000円、当日4500円)。