米軍の無人機攻撃は国際法違反なの?
10月22日、世界的な人権団体アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、米軍がパキスタンやイエメンで行っている無人機攻撃が国際法に違反し、戦争犯罪の疑いがあるという声明を発表しました。国際世論に大きな影響力をもつ二つの団体が揃って批判したことで、米国政府は厳しい立場に立たされています。【国際政治学者・六辻彰二】
米「国内法、国際法に違反しない」
米軍は2004年頃から、無人機を対テロ戦争に投入してきたといわれます。無人機は米国内からの遠隔操作で、偵察だけでなくミサイル攻撃も可能です。 米軍の無人機攻撃は長く「公然の秘密」でしたが、今年4月、国家テロ対策センター議長だったジョン・ブレナン氏は政府関係者として初めてこれを認めました。ブレナン氏は、音が小さく、気づかれにくい無人機はテロリストを確実に攻撃できるため、民間人や米兵の犠牲者が少ないと強調。無人機攻撃が戦略として優れているだけでなく、倫理的にも問題ないと主張したのです。 また、ブレナン氏は米国がアル・カイダと「戦争状態」にあるため、国外であっても脅威となるテロリストを攻撃することは米国憲法に矛盾せず、さらに「遠隔操作による攻撃を禁止する国際条約がない」ため、国際法違反にもあたらないと強調。無人機計画の責任者とみられ、その後CIA長官に就任したブレナン氏の見解は、オバマ政権の見解といえます。
国際法「違反」とする3つの理由
しかし、無人機攻撃は国際的に批判を呼んでいます。10月20日、国連は2004年から米軍がパキスタンで行った無人機攻撃が330回におよび、その結果約2200人が死亡し、そのうち少なくとも400人が民間人だったと報告して懸念を示しました。 今回、アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは無人機攻撃が大きく以下の三点で、1949年のジュネーブ諸条約および追加議定書などに違反していると批判しています。
第一に、戦時に「敵意をもった相手」を攻撃することは認められていますが、無人機攻撃は敵意や武器の有無の識別が充分でない可能性が高いこと。第二に、仮に標的がテロリストでも、「敵対行為」を行っている最中でなければ、過去の行いを理由に攻撃できないこと。第三に、テロリストへの攻撃は捕獲が難しい場合に認められていますが、その場合でも警告が必要で、それらの手順を踏まない攻撃は「裁判によらない処刑」でさえあり得ることです。
孤立する米国の主張
これに対して、米国政府は「国内法、国際法に照らして問題ない」という立場を崩していません。さらに「米国政府は包括的なデータをもっており、それによれば民間人の死傷者はもっと少ない」とも主張。しかし、根拠となる標的の選定基準、作戦の実施回数、死傷者の数などは明らかにしておらず、批判に応えているといえません。 さらに、安全保障上のパートナーであるパキスタンのシャリフ首相も、国内の反米感情を背景に、10月23日のオバマ大統領との会談で無人機攻撃の停止を要請しています。オバマ大統領は無人機攻撃への理解を求めていますが、米国の主張は孤立を深めているといえるでしょう。