《連載:検証 茨城・つくば市政 市長選、市議選を前に》(中) 進む地域の2極化 周辺地区、関係人口が鍵
茨城県つくば市は昨年、総務省が発表した人口動態調査での増加率が2.3%と初めて全国トップになった。人口増をけん引するのはつくばエクスプレス(TX)沿線開発地区だ。研究学園、万博記念公園、みどりのの3駅周辺は2005年のTX開通以降、宅地開発が進展。子育て世代を中心に人口が流入し、沿線開発地区はこの10年で1万6千人から3倍強の5万1千人まで増えた。 児童生徒も急増し、市は18年以降、5カ所に学校施設を整備。2年後にも1校を建設する予定で、これらの建設事業費は総額318億円に上る。 市によると、市内の小中学生数は現在2万2881人。5年前に推計したデータでは29年にピークの約2万5400人を迎える。この春に開校したみどりの南小・みどりの南中は早くも校舎増築の計画が進む。 市中心部に人口が集中する一方、周辺地区は真逆の光景が広がる。 子どもの数は減少し、北部の筑波地区は周辺の7小学校と2中学校が6年前に統合した。インフラ整備も遅れ、上水道普及率は市全体の91%に対し、大穂地区は66%、豊里地区に至っては51%。都市公園が一つもないエリアもある。 市北西部の吉沼小は今年の1年生が20人だった。周辺はかつて洋品店や雑貨店が立ち並び、「銀座通り」と呼ばれるほどだったが、店主の高齢化などでほとんどが店を閉じた。 同小を卒業した女性(30)は「私の時代は同級生が約50人いた。その中で地元に残ったのは2人ぐらい。あとはみんなTX沿線や都内などで暮らしている」と明かす。 市は衰退した周辺地区の振興を後押ししようと、さまざまな対策を打つ。中でも、旧町村時代から生活の拠点となっていた北条、小田、大曽根、吉沼、上郷、栄、谷田部、高見原の八つの市街地の活性化を目指す「R8(リージョンエイト)事業」を核に据える。 市は母体となるR8の団体に対し、年間50万円を上限に活動費を補助。吉沼は「吉沼マルシェ」を年5回開催するなど、にぎわい創出に取り組む。 R8のキーワードは「関係人口」の確保だ。市内の新住民に旧市街地の魅力を知ってもらい、継続的に関わる人を増やす-。筑波大芸術系の藤田直子教授(環境デザイン)はそのツールとして海外発祥のナビゲーションスポーツ「ロゲイニング」を提案する。 地図上のチェックポイントをチームで巡り歩き、点数を競うゲームで、藤田教授はこれまでR8地域で10回以上実施。運営スタッフに同大生が関わり、地域の史跡や飲食店をチェックポイントとして紹介する。 大曽根の団体が6日に開いた地域イベントでもロゲイニングを開催。みどりの地区から家族4人で参加した女性(43)は「自分が住む地区以外のことが分かり、新鮮だった。野菜の直売所など穴場スポットも知ることができた」と満足した様子で話した。 藤田教授は話す。「中心部だけが活性化し、周辺部の活力が落ちるのは全国的な問題であり、行政が早めに対策を打つことが重要。1度の事業で終わらせず細く長く継続し、住民と一緒に周辺部のまちづくりを考えなければならない」
茨城新聞社