大時計がある窓からの眺望 博多駅ビルの「むつか堂」カフェ/福岡市
一日に60本ほど焼く食パンは、夕方までに売り切れるという人気の品。旅行中に立ち寄った外国人が帰国前に再度来店することも多く、購入した食パンをキャリーケースに入れて帰国の途に就くそうだ。
30~40分待ちの日もあるという人気店。オススメの時間帯を聞くと、10時の開店直後なら比較的客が少ない店内で静かな時間を過ごせるとのこと。夕刻が近づくと大きな窓から西日が入り、客の要望でカーテンを閉めることも少なくないという。
「もう一つ」と近藤さんが教えてくれたオススメは、クリスマスシーズンの夕暮れからの時間帯。駅前広場や並木道がイルミネーションで輝く。窓際の席に座ることができれば、博多駅の冬の風物詩を楽しみながら、至高のひとときを過ごせそうだ。
取材を終え、椅子に座って一息つく。大きな時計の文字盤の先に、奥行きのある博多の街並みが広がる。視線を下に向けると、駅前広場を行き交う人の姿が見える。向かいのビルの窓には横断歩道を渡る人たちの姿が鏡のように映っていた。 駅前のパノラマを眺めながら、「そうだ」と気づく。おぼろげな既視感を抱かせる遠い記憶――。20年ほど前に訪ねたフランス・パリのオルセー美術館で、カフェの窓外に広がっていた光景が、むつか堂カフェからの眺望と重なった。 「印象派の殿堂」と称されるセーヌ河畔の美術館は、かつての駅舎を改築したもので、大時計の裏にあるカフェからは、パリの街並みの先に、モンマルトルの丘に立つサクレクール寺院が見えた。 自宅に戻って古い写真を探すと、そのとき撮った数コマを見つけることができた。
時間の経過とともに表情を変えていく街と、大時計が織りなす現代アートのような情景。雨の日、そして日没から夜にかけての時間帯――、博多駅にあるカフェの窓外に広がるキャンバスは、これからどんな作品を楽しませてくれるだろうか。
読売新聞