『おむすび』には“カッコいい人”が一人もいない? 不器用な登場人物たちの愛おしさ
朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』第7週「おむすび、恋をする」(演出:野田雄介)は糸島編のおわり。時はあっという間に過ぎて、結は高3に。結(橋本環奈)は父母とともに長らく暮らした糸島を出て神戸に戻る決意をする。 【写真】朝ドラ初出演の元和牛・川西ら第8週からの新キャスト 高校生活の3年間、結はギャル活動と書道部活動を掛け持ちしたうえ、恋もした。翔也(佐野勇斗)にお弁当を作ることになり、そのやりとりを通して恋心が芽生える。翔也が喜んでくれることが結の喜びとなり、他者を支える仕事に就きたいと考えるようになった。それは栄養士の仕事――。ようやくドラマの主題・栄養士がクローズアップされてきたのだ。 技術はあるがスタミナが足りない翔也のために、結はスタミナのつく栄養価の高い食材でお弁当を作り、それによって栄養に興味を持つようになった。途中、お弁当が翔也の寮の食事と重なって摂取量が増えて体重が増加してしまったため、監督に厳しい注意を受けることもあったが、監督の妻が栄養士で選手の食事管理を徹底しているという設定も、結に影響を与えたに違いない。 未来の夢に向かって栄養士の学校に行くと結が決意したとき、聖人(北村有起哉)もまた、もう一度、夢を見ようとしていた。阪神・淡路大震災で店舗と家が崩壊し、地元・糸島に戻ることを余儀なくされた聖人であったが、もともと、父・永吉(松平健)との折り合いが悪く、父から離れて自立したいと思って神戸で理容師になったのだ。 理容師として一人前になった頃、震災に遭い、夢破れて実家の世話になることは聖人にとって耐え難かったであろう。何もかも頭があがらない父のいる地元よりも、自分の実力を発揮できる神戸のほうが聖人にとってのホームタウンだったのだと思う。 ただ、糸島に戻ったら戻ったで、じょじょに地元で自分が必要とされて役割を与えられていくにつれ、糸島から離れにくくなっていく。そんなときに、神戸の商店街に空きができたと連絡が入り、聖人は迷いに迷う。 神戸行きの準備は着々と、愛子(麻生久美子)と結によって進行し、引っ越しの1カ月前になっても、聖人は永吉に言い出せない。結果的に、翔也がしゃべってしまい、永吉が「いかん!」と反対した反動で、聖人は売り言葉に買い言葉で神戸に行く決意を固めることに。 この喜劇仕立ての場面を観て、永吉がこうでもしないと、聖人はいつまでもうだうだ悩み続けたのではないかと思った。だから永吉は、「いま完全にいいっていう雰囲気だったよね」(愛子)の雰囲気のなか、あえて逆を言ったのではないか、と想像してみた。でも、そういういい話にはこのドラマは決してしない。ただありのまま、その場で起こったこと、その連なりを、たとえ収まりが悪くても、そのままにしか描かない。このちっとも素敵なことにならない、むしろみっともない感じこそ実人生だなと思う。だが、私たち視聴者がドラマを観る理由のひとつとして、苦しい現実、つまらない現実を忘れたいからというものがある。理想的な関係性、セリフ、展開を求めているのだ。 ところが『おむすび』はそれを与えてはくれない。みんな大好き“伏線”も、わかりやすく描かない。あとから、実は……と思いがけない事実が語られて、本気でビックリしてしまう。これも現実的である。 カッコいい人がひとりもいない。永吉が「いかん!」とごねることで、いつまでもはっきりしない聖人の背中を押したことにしたらすっきりするのに、そういうふうにしないのだ。なんとも意地っ張りな脚本である。正直、筆者はそういうのも嫌いじゃない。鮮やかなまでのいい話も大好きだが、不器用な人たちの話も好きだ。