イチローにプロ初本塁打を献上した野茂英雄が渡米後、「イチローと再び対戦してみたいですか?」の問いに返した言葉とは?
イチローのプロ入り第1号ホームラン
でも、いざプロ入りしてみると壁に当たってしまう。プロのスピードについていけない。自分よりもパワーのある選手に格の違いを見せつけられる。 そして自分のスタイルを変えていくんです。これからもプロで生きていこうとした時に、ホームランでなかったら何で生きていくのか。守備を完璧にしたり、バントや走塁を練習したり、自分にできることからモノにしていく。 おそらく、その過程で選手は脇役に徹することを覚悟するんだと思います。本当は主役でやりたかったけれども、仕方なしに諦めるんでしょうね。 だからこそイチローは立派なんです。一軍でレギュラーを張る今となっても、自分のスタイルを変えずにやっている。挫折することなく、あくまで主役として〝振り切る〞ことに徹している。だから魅力的なんです。 ところで、マスコミの人たちは何かと、イチローのプロ入り第1号ホームランが僕から放ったものだということで、ドラマ性を見いだしたがってるようです。 でも、そんなことは本人たちにとっては、どうでもいいことなんです。あの頃、僕は肩の調子が悪くて、自分のことで精一杯だった。だから正直言って、イチロー君とのいくつかの勝負はよく覚えていないんです。 おそらく彼も、過去のゲームのことをいつまでも覚えていたりしないと思いますよ。これから何本も打つホームランのうちの1本が、たまたま僕からだったというだけのこと。 僕だって、清原さんとの初対決は三振でしたけど、そんなことはどうでもいいことだと思っています。清原さんのほうだって、もう忘れてると思いますよ。意識の中にもないでしょう。 だから、イチロー君の将来性を考えれば、僕から奪ったホームランを思い出にして生きるようなバッターじゃないと思うんです。 まぁ、マスコミに聞かれれば〝野茂さんのフォークは凄かった〞とか、多少のリップサービスはするでしょうけど、それはあくまで社交辞令ですよ。 「そんなイチローと、再び対戦してみたいですか?」─こんな質問も何回か受けました。 おそらくイチローはメジャーで通用するか、という意味合いも含まれているのだと思うのですが、それは何とも言えません。 メジャーに来さえすれば、通用する可能性は十分にあると思いますが、本人が来なければしょうがない。それよりも今年は、日本で野球をしているわけですから、またプロ野球を沸かせてほしいと思いますね。 写真/shutterstock ---------- 野茂英雄(のも ひでお) 日本人メジャーリーガーのパイオニア的存在。大阪府大阪市港区出身。26歳の頃に年棒980万円でロサンゼルス・ドジャースと契約。初年度に13勝6敗を記録し、チームの7年振りの地区優勝に貢献。独特の投げ方はトルネード投法と呼ばれ、人気を博し、NOMOフィーバーを巻き起こした。現在もサンディエゴ・パドレスでアドバイザーを務めている。 ----------