掛布雅之に「いい失敗」「悪い失敗」の違いを説いた「意外な人物」…一流打者でも7割は失敗するプロ野球で大切なこと
「プロ野球の歴史の中で、打率4割を打った選手はいません。どんな一流打者でも3割台で、7割は失敗なんです」。そう語るのは「ミスタータイガース」と呼ばれた伝説の打者で、著書『掛布の打撃論』を上梓した掛布雅之氏だ。そんな掛布氏が「いい失敗」をすることの大切さと、ビジネスパーソンも参考にしたい「失敗を成長につなげる方法」を語る。 【一覧】プロ野球「最も愛された監督ランキング30」最下位は、まさかの…
調子がいいときほど眠れない理由
私は毎夜、自分のホームラン集のビデオを見てイメージづくりをしていました。そういう日々の中で、実は打てずにもがいている自分のほうが好きでした。 少し哲学的になりますが、調子よく打てているときは怖くて仕方がないのです。「いつ調子が悪くなるのだろうか」と。 ケガさえしていなければ、精神的には結果が出ていないときのほうが楽だったのです。下にいるときは上がるだけですから。だから打てないときのほうが眠れて、打っているときのほうが眠れないものでした。 長いプロ野球の歴史の中で、打率4割を打った選手はいません。いくら打っても結局は3割台で、7割は失敗なわけです。 となると、3割打った打者が次にどこを目指すべきかというと、7割の失敗の内容をどうするかです。やはり毎年のように3割打つ打者は、7割の失敗の内容がいいのです。
升田幸三先生から教わった大切なこと
これは伝説的な将棋棋士として知られる升田幸三先生に諭されたことです。私が初めて打率3割を打った21歳のときにお話をする機会に恵まれました。 そのときに、「これから君がやらなければいけない野球を考えるとする。21歳で3割を打った。では、10年後に4割を打てるのか」と聞かれたのです。 私は「打てません。10年後の30歳のときも3割打つために必死になってバットを振っていると思います」と返事しました。 すると、「では、21歳で打った3割と、30歳で打つ3割の違いはどこにあると思う?」と聞いてくるわけです。21歳の私にはさっぱり答えがわかりません。すると、升田先生が言いました。 「それは7割の失敗にあるんじゃないか。いい失敗をしなさい。失敗の内容を変えることが、きみの野球の成長につながるんじゃないのか」
失敗の内容を高めることをぶれずに求める
その言葉を胸に、数字だけを追い求めるのではなく、大局的な視点で打撃を考えられるようになりました。 例えば相手のエースと10回対戦するとして、どん詰まりのポテンヒットが3本。あとはポップフライや三振。 もうひとつは、ヒットは1本しか打てなかったけれど、一歩間違えれば本塁打の外野フライを何本も。 後者のほうが打率は1割でも、前者の3割より内容が濃いということ。より相手にプレッシャーをかけられるということです。ヒットになる、ならないは、運もあります。失敗の内容を高めることをぶれずに求めなさいと教えてもらったのです。
掛布 雅之(プロ野球解説者、評論家)