「JBL4343」を驚きの使いこなしで鳴らす90歳のジャズ・レコード研究家 東京・西川進さん
2025年夏に発売予定のCDジャーナルムック『マイオーディオライフ2025』(山本耕司著)発売までの間、2023年発売の前号『マイオーディオライフ2023』に掲載された記事の一部を抜粋し、掲載していきます。 今回は、東京都杉並区在住・西川進さんのご自宅の様子と使用機器を紹介します。 [取材レポート] リニューアルされた小田急線の下北沢駅に降り、おしゃれなカフェや古着屋などが立ち並ぶ商店街を抜けたあたりにめざす西川さん宅はあった。前号の本書で取材した浅草駅すぐ近くにお住まいの服部傳也さんと同じJC会(ジャズレコードコレクターズ会)の会員で名うてのジャズレコードコレクターだという情報を頭に入れて取材に向かった。 ――――ジャズ好きが鳴らしたい驚嘆と尊敬の音 ご存知の方も多いと思うが、私は料理が好きだ。写真、オーディオその他の原稿を書き、食品を販売したり飲食業をやってみたり、いろいろなことを仕事にしているのだが、その中でいちばんイメージが湧くのは何かと考えるとそれは「料理」だと思う。料理は正式に習ったことはないのだが、いちばん自由度を感じる。つまるところ美味しければよいのであって、どんな材料をどんな道具で調理してもよい。そうして、作った料理を私と一緒に食べて、「美味しい!さすが!」と喜んで褒めてくれる人を求めている。西川進さんのお部屋に通されてスピーカーを見た瞬間、「あ、JBL4343かあ」と思った。正直、4343をうまく鳴らしている人って本当に少ないのだ。だが、挨拶が済んで音が出た瞬間0.5秒でそうした心配と不安は吹き飛んで、驚嘆と尊敬に変わった。「すごい!」ジャズ好きはみんなこんな風に鳴らしたいと思っている筈だという音が出ている(でもなかなか出せないんだよな)。レコードを何枚かけ変えてもその思いは同じだった。迫力があって一般家屋としてはかなりの大音量だが耳に痛くない。鮮烈なのにうるさくない、絶妙なバランスだ。西川さんにその気はないだろうが、ジャズ喫茶を開店したら聖地になりそうなほど素晴らしい音だ。 ――――毎日新たなレコードを求め究極の使いこなしを実践 西川さんがお使いのカートリッジは、オーディオテクニカの4000円ぐらいのカートリッジだった。それでこの音が出ている。私はこの本を含めて5冊の訪問記事を書いてきたが、使用カートリッジの最低価格記録保持者は西川さんに決定、表彰状とメダルを進呈したい。「もちろんMC・MMとたくさんのカートリッジを試してきたが、この状態になったらカートリッジを選ばなくなった」とのこと、それすごくよくわかります。カッコいい人は何を着てもカッコいいのです。 まず、この本が出る頃には90歳という年齢をきいて驚いた。レコードをかけ、重たいものを持ち、お話や記憶もよどみがない。ここまで心身ともに健康な90歳は理想で、私も西川さんのような90歳になりたいと心底思った。 そしてさらに驚きの事実が明かされた。西川さんが4343のサランネットを外すとミッドバスのエッジがない。ご存知の通りJBLのウレタンエッジは、経年劣化でボロボロになるわけだが、「交換すると高いのでそのままにしてあります(エッジレスで鳴っている?)。それで上に置いてあるビクターの小型スピーカーが一緒に鳴っています」という説明をきいて「そんなのありか!」と絶句した。でも、すごくいい音なのだからこれこそ使いこなしというものだろう。 とても健康な西川さんは、下北沢のディスクユニオンにレコードを買いに行くのが日課になっている。購入するのは「安くて演奏が良くて高音質なもの」だそうで、良いレコードが手に入ると、ウキウキして家に帰って再生するそうだ。 ――――いい音を手にできる思いの強さと運とセンス ビクターの小型スピーカーは3ウェイなので、合計7ウェイバイアンプ駆動なのだが、パワーアンプは100W程度の地球に優しそうなものでこの音だから驚く。ビクターのスピーカーの型番を知りたくてサランネットを外すとバッフルには型番がない。「単独の製品ではなくセットで売られたものですかねえ」と言ったら、「そのビクターは道路にゴミとして出ていた物を拾ってきたんです」という驚きの西川式三段ロケットが点火して、私にも少し残っている常識という大気圏から超絶に素敵な非常識の宇宙へ飛び出した。 「今日は大いに勉強になりました」と最後の挨拶を交わして帰途についたのだが、高級な製品を使わず、それほど金をかけずともいい音は出る、問題は「思いの強さと運とセンス」なのだ。その意味で西川さんは先輩というより私の先生と呼ぶべき方だった。お元気そうだし、この分だと100歳のジャズレコード研究家&オーディオマニアも夢じゃない。