『ロード・オブ・ザ・リング』なぜアニメ映画化?「攻殻機動隊」神山健治が監督を引き受けた理由
日本のアニメを長年プロデュースしていたワーナーのジェイソン・ディマルコが、『攻殻機動隊SAC_2045』を製作していた神山監督に接触。ジェイソンは、『ロード・オブ・ザ・リング』を日本のスタイル=手描きのアニメーションで映像化したいと神山監督に打診したそうだが、神山監督の答えは「とても難しいんじゃないの?」だった。 「馬が2,000頭も出て来たり、オークの軍勢が出て来たり、ホビットだけでも大変ですよって。ホビットが大変なのは、その大きさ。ルックは人間と同じようなのでいいんですが、彼らは小さいでしょ? そういうキャラクターの比率を考えただけでも、日本(スタイル)のアニメで作るのは難しいんじゃないかと思いましたね」
「同時に日本国内に、これをやりたいというアニメーターがいるんだろうかとも考えました」とも語る神山監督。「日本のアニメーターにとってもっとも重要なのは、その作品に対してモチベーションを持てるのかということです。彼らには『LOTRだよ? そんな人気作をやりたくない人なんているの?』と言われたんですが、『やりたくないわけじゃない。それがどれだけ大変かということがわかるので、凄く難しいんじゃないのかな』と答えたんです」
しかし神山監督は、企画について話を聞くうちに「彼らは本気でアニメを作りたい、しかも日本のスタイルで作りたい」とワーナーやニューラインの熱意を受け止め、「僕にとってもこんなチャンスはない」と企画に参加することを決意。特に魅力を感じたのは、本作の主人公が人間であるという点だ。物語は「指輪物語 追補編」の一部であるローハンの最強の王ヘルムについての記述を膨らませたオリジナルストーリー。ヘルム王の一人娘である戦士・ヘラと、幼馴染にして宿敵となるウルフの宿命の対決が描かれる。
「そのエピソード自体が面白かったこと、そして物語がオリジナルというところでした。追補版にはわずか一行だけ『3人のきょうだいがいて、その末っ子は娘だ』と書かれていて、その娘の名前は記されてない。あの時代は女性の名前が残ることはなかったからですよね。『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』でもセオデン王の姪であるエオウィンは活躍するとはいえ、剣をもつことすら禁じられていたのでこっそり闘っていたくらいですから」 ボウエンも「神山監督が惹かれたのは、ちょっと短所もあるヘルム王」と語っており、「子供たちには愛はあり、それが彼の大きな特徴になっています。いまは命を吹き込まれた作品を見て、正しい選択をしたと思っています。アニメというフォーマットを選び、その第一弾としてパーフェクトな作品になったと確信しています」と神山監督の手腕に期待を寄せる。