【サクラフィフティーン PICK UP PLAYERS】最後に笑おう。山本実[YOKOHAMA TKM/SO・CTB]
2015年の初キャップからサクラフィフティーンの一員として活動を続ける山本実は、周囲の反応とは異なる感情を抱いていた。 引き分けと惜敗に終わった8月のアメリカ戦は、格上相手に健闘したと評価される一方で、山本は「W杯に向けて少し焦りがありますし、チームとして何かを変えないとまずい」と正直な思いを吐露する。 「キエさん(玉井希絵)伝手ですが、アメリカ代表のキャプテンが言っていたのは、この2試合は若手にとってすごく良い機会だった、ということ。確かにアメリカは強豪ですけど、主力選手がいない中で勝ち切れなかった。危機感を持たなければいけないと思いました」 勝利こそがもっともチームを前進させるものだと知っている。だからアメリカ戦の第2戦、3点を追う試合終了間際にPKを得ると、山本は迷わずタッチに蹴り出すことを選択した。 「(主将の長田)いろはにも事前に確認していました。そういうシチュエーションになったらどうするか、勝ちに行きますと」 結果として敗れはしたが、この試合に後半26分から登場した山本は、短い時間でラインブレイクを見せるなど結果を残した。 「最近、GPSやスピードの数値も上がっていて、かなり体の調子も良いんです。いろんなチームでプレーしてきたこともあって、スペースにボールを運ぶことができていると思います。1個フェーズを重ねてしまうと、スペースが消えてしまうことが結構ありますが、今はそこを見逃さずにボールを運べている。アメリカ戦でもうまくオーガナイズできたと思いますし、良い声かけができていたのかなと。それは言葉が通じない海外に行ったからこそ得られた学びだと思います」 海外挑戦への思いを抱いたのは、2017年のW杯を経験したからだ。自分の無力さを痛感、さらなるレベルアップと15人制の試合経験を求めていた。それが叶ったのは2021年。レスリーHC経由でウスター・ウォリアーズからオファーを受け、主力として活躍できた。 「日本人がいない街だったからこそ温かく迎え入れてくれましたし、現役を終えるまでいたいと思えるくらい良いチームでした」 しかし、悲報は突然知らされる。財政難でチームが解散になった。 「ウォリアーズの2年目は会社を退職して挑戦していたので、本当に驚きました」 行き場を失った山本に、手を差し伸べたのが同じプレミアシップのセール・シャークスだった。1年契約を結んだ。 シャークスには毎週火曜に元イングランド代表SO、ケイティ・マックリーンによるキッキングセッションがあり、多くのことを吸収できた。しかし、ここでも辛い思いを味わった。 「もともと構想にあった選手ではなかった上に、今シーズンからEQPというイングランド代表になれる資格のある選手を23人中(平均) 13人起用しないといけないルールが設けられました」 出場機会が限られ、チームも不調に喘いでいた。それでも腐らず努力し続けた結果、最後にチャンスが舞い込む。最終戦に22番でメンバー入りした。 その試合で山本は50:22キックを決め、チームの逆転勝利に貢献する。後に準優勝するブリストル・ベアーズを破ったのだ。 「辛いことがあっても、頑張っていれば良いことが起きるんだなと。ウォリアーズはなくなったけど、それがあったからシャークスに来られたし、いまはTKMに来て楽しくやれている。だからサクラフィフティーンでも、チームとして今うまくいっていない時間があったり、個人としてゲームタイムをもう少し欲しかったりするのですが、たぶんW杯ではみんなで笑えているんだろうなと思えるんです」 出場すれば3大会目となるW杯。「すべてを出し切りたい」と意気込む。 「イングランド大会というのも縁を感じますし、ブライトンの奇跡があって現地ではすごく応援される。2015年の時みたいに、誰かの記憶に残るような試合をサクラフィフティーンでもしたいと思っています」 (文/明石尚之) ※ラグビーマガジン11月号(9月25日発売)の「女子日本代表WXV2開幕直前特集」を再編集し掲載。掲載情報は9月18日時点。