ラップは息苦しい世の中の救世主になるか、「絵本」「社員研修」「大学教育」で広がるHIPHOP
その効果は、半年にわたる研修の最後に行われた納会での、部署対抗ラップバトルで表れた。管理部門と営業部門の社員の対戦では、管理部門の社員が用意した出張先のホテルをめぐって、営業が不満を爆発させるなど、これまで言えなかった「本音のバトル」が繰り広げられ、会場は共感の拍手と爆笑の渦に包まれた。
「細かい話かもしれませんが、領収書の切り方一つでも経理担当と営業担当のすれ違いってありますよね。普通なら少々イラッとしても、みんな心に抱えちゃうんでしょうけど、ラップで言葉をぶつけあえれば、そんなこともなくなります。研修後は、社の雰囲気も良くなったと聞いています。自己表現の方法、悩んでいる自分との向き合い方について、ラップを通じて何か感じ取ってくれたのではないかと思います」
研修を開催した「ヤブシタ」の広報担当者も「最初は、社員の語彙力・瞬発力を高め、伝える力を鍛えるためにラップ研修を取り入れた」としながらも、「部署対抗で行ったことで社内コミュニケーションも円滑になり、信頼関係が強くなった。人前でラップするという経験でメンタルも鍛えられた」と話す。ちなみに部署対抗ラップバトルでMVPを受賞した男性社員はその後、楽曲をリリースするまで、腕前をあげたのだという。
「フリースタイル絵本作り」
創刊68年の歴史を持つ月刊絵本「こどものとも」(福音館書店)。幼稚園などで定期購読される伝統のシリーズだ。今年の8月号で刊行された「よなかのこうえん」はラッパー・環ROYさんが文章を担当している。
「こどものとも」で環さんの作品が発表されるのは、2020年12月号の「ようようしょうてんがい」に続き2度目。いずれも、文章は母音で物語をつなげる「ラップ」で作られている。
両作品に編集者として関わった、福音館書店の満名要大さん(40)は、「作品は会議室などで環さんのフリースタイルラップをメモに書き留めて作っています」と明かす。物語の大筋を決め、満名さんが作品のディテールに注文をつけながら、環さんが即興で作ったラップを作品に仕上げる。満名さんも「編集者人生でも、この2冊だけ」という独特な手法だった。