「赤字のローカル線は要らない」と言う人たちが見落としている「そもそもの議論」
「再構築会議」の本当の狙い
日本の各地で赤字路線の廃止・存続を巡る議論が噴出している。 発端は、2022年7月に発表された〈国道交通省有識者会議・鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会〉の提言にあるようだ。 【写真】なぜ「新幹線のトビラ」はこんなに狭いのか…?その納得の理由 ここでは、JR各社の赤字ローカル路線について1キロあたりの1日平均乗客数(輸送密度)が「1000人未満」の場合、鉄道事業者と関係自治体の間の協議を促すよう示されていた。 折しも、2022年8月には記録的な大雨による災害が生じ、JR東日本の津軽線、五能線、花輪線等が被害に見舞われ、その連絡調整会議が各地で開かれた。その後、2023年10月に国土交通省は地域公共交通活性化再生法を改正し、上記提言をふまえた赤字路線を対象とする再構築協議会の設置が行えることとなっている。 こうした動きを受け、JR西日本では芸備線で議論が始まり、JR東日本では青森県津軽線、千葉県久留里線で同様の会議が設置されたという。これらの会議が目指すところは何か。 国土交通省有識者会議の提言を見ても、また芸備線の議論の報道を確認しても、これらの会議は本来、赤字ローカル線の廃止を目指したものではない。事実、提言には「廃線ありき、存続ありきという前提を置かずに協議」と明記されている。 だがまた他方で、すでに津軽線では2024年5月に関係自治体の協議がまとまり、廃線化とバス路線への代替が決まったという。 この先例を見れば、再構築会議の狙いの一つが、末端路線切りにあると言われるのも頷けるところだ。だがそれは本当だろうか。ここには何があるのだろうか。
「増田レポート」とおなじやり口
この流れの中で大変気になるのは、2022年7月からJR東日本が行っている赤字路線に関する情報の開示である。 敢えて本稿では掲示しないが、「ご利用の少ない線区の経営情報(2022年度分)の開示について」と題されたペーパーでは、平均通過人員が1日2000人未満の線区の数値とともに、その営業収支が細かく提示されている。 2022年の数値が現時点での最新版だが、そこでは35路線66区間がリスト化されている。筆者は〈女性は「地方にいろ」と言うのか…「消滅可能性都市」増田レポート最新版が押し付ける「少子化の責任」〉に、2024年4月に発表された消滅可能性都市(持続可能性都市)リストの問題について論じたが、まさにそこで行われていた手口と同じやり方をこのリストには感じる。 JR東日本がこうしたリストを公表した意図はわからない。JR東日本の立場も「廃線ありき」ではないと明言されているからだ。 しかし、名指しで業績の悪い路線を下から選んでこのように示せば、名指しされた方はたまったものではない。あたかも「あなたたちにどれだけお金がかかっているんだ」と言わんばかりの情報の提示の仕方に対し、青森県津軽線の関係自治体首長が耐えきれなくなったのも理解できる。 宮下宗一郎青森県知事は、こうしたことが「前例になるのは避けたい」と述べたという。筆者もまた、こうしたやり方は卑怯ではないかという疑念が拭えない。