2度の大ケガを乗り越えた、日本大学の米須玲音の進化と変化「五輪を見て、もう少し上の目標を掲げないといけないと思いました」
オータムリーグで約300日ぶりの公式戦復帰
8月末にスタートした関東大学バスケットボールリーグのオータムリーグは、各チームが6試合終了と序盤戦を終えたところだ。日本大は開幕戦の白鷗大に敗れるも、そこから5連勝と順調なスタートを切っている。9月4日に行われた中央大戦でも、互角の出だしから前から当たるディフェンスからのトランジションでリズムをつかむと、第2クォーターに20-6のビッグクォーターを作って突き放した。後半に入っても試合のペースを握り続け、87-51で圧勝している。 日本大の好成績を牽引している1人が、4年生の司令塔である米須玲音だ。大量リードもあってプレータイムは17分に留まったが、8得点8アシスト4スティールと攻守でインパクトを与えた。 東山高校時代から世代屈指の選手としてスポットライトを浴びていた米須は、日本大でも1年生から中心選手として活躍していた。しかし、大学1年目のシーズン終了後に特別指定で加わった川崎ブレイブサンダースでの活動中に右肩脱臼で離脱すると、ここからケガとの長い戦いが始まる。大学2年時には膝の前十字靭帯損傷、3年時には肩の故障が再発と、ほとんどプレーできなかった。このオータムリーグで、約300日ぶりの公式戦復帰を果たしている。 当然、長いブランクの影響はまだ残っているはずだが、それでも随所に見せる視野の広さと抜群のコントロールから繰り出すパスで次々と味方のシュートチャンスを生み出すなど、高校時代から見る者を魅了する唯一無二のゲームメークは健在だ。そして、彼のテンポの良いパスさばきによって日本大のオフェンスは流動性が生まれるなど、スタッツ以上のインパクトを与えている。 ここまでのチームの戦いぶりについて、米須は次のように手応えを語る。「ケガ人も多いですが、試合を重ねていく中で徐々に自分たちがどういうチームなのかを明確にすることができています。ディフェンスで仕掛けて、そこから速いバスケットに持っていくことを日大のスタイルとしてはっきり出せていると思います」 そして自身のパフォーマンスについては「ここ数試合は大分アシストも重ねつつ、今日は得点もしっかり取れました。アシスト、得点の両方をもっと増やしていきたいです。アシストのところは問題ないと思っていますが、シュートの部分で迷ってしまうところもあります。そこは積極的に打つことを意識していけば、今日のようなプレーができます」と、収穫と課題を挙げた。 中盤戦に向けた改善ポイント「ディフェンスをはがしてすぐにパスをもらえるようにする」 オータムリーグは8月24日の開幕から12日間で6試合とタフな日程が続いている。その中で、「肩に疲れがきているのは事実です。ちょっと肩を触ってないと落ち着かないくらいなところはあります」と明かす米須だが、コートに立ち続けていることで不安もなくなってきている。「手術をする前よりも不安はなくなってきています。試合にしっかり集中して、ケアをしっかりすることで、試合の中での不安は消えてきています」 この日の会場は、特別指定で在籍した川崎の本拠地、とどろきアリーナだった。もちろんプロバスケの華やかな仕様である川崎のホームゲームと、何も装飾がされていない今回の試合には大きな違いがある。それでも、米須にとっては特別な意味があった。「戻ってきたではないですけど、今日は楽しみな感じで試合を迎えました。川崎でやっていた時は、コートが1面だったのが今日は2面だったので広く感じました。それでも親近感が湧くというか、この体育館でやるのは楽しいです。また、戻れたら戻ってきたい思いはあります」 当然のように2シーズン連続で満足にプレーできなかったことは大きなマイナスだ。だが、この苦しい状況でも米須は、自分のできるベストをしっかり尽くしてきた。その成果は逞しさが増した肉体にしっかりと反映されている。米須はフィジカルの進化をこう語る。「膝の前十字を故障したことで生まれていた左右の脚の筋力差はなくなりました。上半身ががっちりしているのは測定の数値にも出ています。上腕の腕周りで3cm、4cmくらいは太くなりました」 また、メンタル面でも変化は起きている。故障中は先のことを見据えるのも難しいだったはずだが、今はこのように野心を持っている。「大学バスケはもちろんですが、オリンピックを見てもう少し上の目標を掲げないといけないと。Bリーグだけでなく、将来的には海外にも行けるような選手になりたいと思います」 この向上心は、河村勇輝を筆頭とした同世代の選手の活躍に刺激を受けた部分もある。「河村さんは上まで行ってしまいましたが、そこを目標にして自分も階段を上がって辿り着けたら最高かなと。目標を変えずに上を見ながら一つずつやっていきたいです」 これからリーグ戦は中盤戦へと突入していく。ブランクの影響を感じさせないことで、対戦相手の米須へのマークはより激しさを増してくるはずだ。米須もそれを理解している。「数試合してみて、ディフェンスリバウンドを取って速い展開で攻めようとした時、自分にすぐマークがついてパスをもらえない状況が出ています。そこでディフェンスをはがしてすぐにパスをもらえるようにする。そこは自分に足りないところだと思っています」 2度の長期離脱を経ての大学最終シーズン、米須は心身ともに確かな進化と変化を伴ってコートに戻ってきた。このまま故障がなく、しっかりとシーズンを戦い抜くことができれば、結果は自然とついてくることだろう。それは、これまでの彼のプレーが証明している。
バスケット・カウント編集部