24年間ひきこもった52歳男性、生まれて初めての仕事で雇い止め宣告…それでも社会復帰を諦めなかったワケとは
「もっと早くケガをすればよかった」
本腰を入れて就活を始めたのは49歳のときだ。 正社員を目指してハローワークの合同面接会に参加しても、就労経験がほぼないことと年齢がネックになり、なかなか2次面接に進めない。 SINには2年間という利用制限があるが、期間内に内定を得られず野口さんは1年間の延長申請を出して就活を続けた。 職員のアドバイスで目標をパートに切り替え、企業実習に参加すると2年3か月で内定を得ることができた。 3か月間のトライアル雇用、半年間の有期雇用を経て無期雇用になり、現在は週5日、1日6時間半の勤務。 手取りは月12、3万円だが、障害年金2級と合わせると約20万円になるので、ほとんど貯金している。早く実家から出て一人暮らしをしたいと思っているからだ。 仕事は事務補助。契約書をていねいに三つ折りしてて封入するといった細かな作業や、業務委託先から送信されるデータの検収といった適切かつ迅速な判断を求められる作業もある。 マニュアルがあるし、困ったことがあればヘルプを出せばいいのだが、プレッシャーを感じる日々だという。 「働き始めて1年経ちますが、いまだに朝の目覚ましが鳴ると、与えられた仕事をやり遂げられるか、膝が動かなくなったらと不安になります。 成功体験が少ないので、つい大丈夫かなって。自分でプレッシャーをかけてしまうんです。 職場で緊張したり不安でいっぱいになったときは、笑顔のスイッチを入れて、ゆっくり息を吐くように心がけています。そうするとSINで一緒に学んだ利用者の方々の笑顔が浮かんで、落ち着くんです」 もし、ケガをしていなかったら、今どうしていると思うかと聞くと、野口さんはしばらく考えて、こう答えた。 「ひきこもっている最中にSINのことを教えられても、何も変わらなかったでしょうね。ケガも入院も、その後に経験したことも、どれも必要なプロセスだったと思います」 そして、照れ笑いを浮かべながら、こう続けた。 「もっと早く、若いころにケガをすればよかったのに……。それだけが心残りですね」 取材・文/萩原絹代
萩原絹代