24年間ひきこもった52歳男性、生まれて初めての仕事で雇い止め宣告…それでも社会復帰を諦めなかったワケとは
ありのままの自分を出す
2か所の就労移行支援事業所を見学に行ったが、そのうちの1つはビルに囲まれた場所にあり、窓のカーテンも常に閉めっぱなしだった。 「自分がひきこもっている部屋と似たような景色だったので嫌だなと。僕の部屋に窓はあるけど、北側ですりガラスなんです。ひきこもりの生活は快適だと思われるかもしれませんが、僕の部屋、エアコンがないです。 室外機を置くスペースがないし、父親に陳情するのも面倒くさいなと。今年の夏は特に暑かったので、扇風機と自分の間に大きい保冷剤を置いて冷風にしていました」 2か所目の SIN医療福祉サービス(以下、SIN)もビルの入り口が薄暗くて不安になったが、事業所の中は明るく、大通りに面した大きな窓は開放感があった。 「所長に『障害者雇用は難しくない。素直になればいいんです』と言われて、思い切ってSINに身をゆだねてみようと思いました。僕がひきこもりをこじらせたのも、素直になれなかったからかなと考えたんです」 SINではまず、アサーション(ていねいな自己主張)と傾聴(相手の話を肯定的に聞く)を学んだ。 利用者同士で話し合いをするプログラムが多く、例えば、新聞要約の訓練では、各々がニュースの要約を発表して、それについてどう思うのか、1人ずつ発言していく。 グループワークでは、2か月後の企画実施日に向けて、利用者だけで話し合い企画を決める。多数決で決めるのではなく、1人1人が自分の意見を言うことを求められた。 野口さんが繰り返し指摘されたのは「ありのままの自分を出す」ということ。 母親に「黙っていなさい」と言われ、子どものころから自分を抑圧し続けてきた野口さんにとって「自分を出す」のは最も苦手なことだ。 最初は不安や緊張から頭が真っ白になって、一言二言しか発言できなかった。衝動的に「どうしたらいいでしょう」と解決策を求めて、職員を困らせてしまうことも多かったそうだ。 「可能な限り多くの企業実習や面接会に参加して、失敗も経験して、自分の特性を理解し、次のステップに生かしましょう」とも言われたが、参加するかどうか決めるのは利用者だ。 職員が急かしたり、促すような声かけはしない。野口さんは頭では理解していても、躊躇してなかなか踏み出せなかったという。 「ひきこもっていたので経験値が少ない→自信がない→踏み出す勇気がない→経験値を稼げないという無限ループに陥っていました。 そのころの私は、”大きなことを成さないと“とか、 “最後までやり遂げないと意味がない”と思っていたので、余計に一歩を踏み出せなかったんですね」 SINでさまざまなプログラムを受講し、他の利用者と交流するうちに、「ハードルをなるべく低く設定して、ちょっとずつ進んでいけばいい。途中で失敗しても、経験値は稼げる」と気が付き、ようやく無限ループから抜け出すことができたという。