「放火するぞ!」相次ぐ脅迫が… 話題の「トランスジェンダー本」に監訳者は「ヘイトではない」
米ジャーナリスト、アビゲイル・シュライアー氏の著作を翻訳した『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』を巡って騒動が起きている。発行元の産経新聞出版や書店が、放火を予告する脅迫を受けたのだ。“言論弾圧”による混乱の実態とは――。 ***
今月3日に発売された同書は、性転換に際しての手術などで回復不可能な心身の傷を負ってしまい、後悔する少女たちを取材したノンフィクションだ。同書によれば、アメリカでは未成年であっても性転換のハードルが低く、そのための医療行為で多くの悲劇が起きているという。 「昨年末、KADOKAWAがこの翻訳版を別の邦題で出版する予定でしたが“トランスジェンダーへの差別を助長する”といった批判が高まりました。抗議集会の予告などを受け、結果として、同社は出版を取りやめてしまったのです。その後、産経新聞出版が版権を手に入れ、このたびの発売にこぎ着けました」(社会部記者)
対応に苦慮する書店
同社には発売前から抗議が寄せられ、ついには脅迫メールまでもが届く事態に発展した。 「3月19日、親会社である産経新聞宛てに出版中止を求め、発売した場合には取扱書店に放火する旨の脅迫メールが届いたそうです。さらに、いくつかの書店にも直接、同様の脅迫メールが送られてきた。産経新聞出版は同29日に被害届を提出し、警視庁が威力業務妨害事件として捜査にあたっています」(同) 今月2日、産経新聞の近藤哲司社長は幹部会議で「警戒レベルを上げるが、脅しには屈しない」と宣言し、翌3日の発売を決行した。現在、この騒動が話題になったことで同書の売れ行きはすこぶる良く、すでに重版がかけられたようだが、書店の側は対応に苦慮しているという。
“店の倉庫から”
例えば、都内の某大型書店では売り場のどこにも同書が見当たらない。店員に聞いてみると、 「ウチは脅迫を受けたわけではありませんが、大事をとってお客様から見えるところには置いておりません。問い合わせがあれば、店の倉庫から出してくることになっています」 また、事前に脅迫を受けたという別の某大型書店の担当者によれば、 「取次から配本を受けた後、今月1日の会議で、店舗もオンラインも一律に販売を見合わせることにしました。お客様や従業員の安全を考えた末の決定です」 むろん、通常通りに販売を行っている書店のほうが多く、今のところ放火は起きていない。とはいえ、脅迫を受けた当事者を中心に、身の危険を感じて販売を見合わせた書店がいくつも存在するのは事実だ。
「学術寄りのドキュメントで、ヘイトではない」
同書の監訳を担当した精神科医で昭和大学特任教授の岩波明氏はこう述べる。 「この本は、アメリカで大勢の思春期の少女たちがホルモン治療や性転換手術を受けている現状に関して、丁寧に医療的な視点から描いた、学術寄りともいえる硬めのドキュメントです。当然ながらヘイトではありません。政治利用され、脅迫の対象になるのは誠に残念です」 議論であれば大いに戦わせてしかるべきだが、自らと異なる意見を暴力で封じようとする脅迫は言語道断だ。一刻も早い事件の解決が待たれる。 「週刊新潮」2024年4月18日号 掲載
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