日向坂46『ゼンブ・オブ・トーキョー』が映す“青春の全て” 東京に憧れを抱く全ての人へ
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、いつだって青春ど真ん中の間瀬が『ゼンブ・オブ・トーキョー』をプッシュします。 【写真】場面カット(複数あり) ■『ゼンブ・オブ・トーキョー』 AKB48や乃木坂46など、秋元康プロデュースの大所帯アイドルグループの何が私たちを魅了するのか? そのアイドル性を紐解くには様々な観点を持ち出す必要があるものの、彼女たちに共通している魅力といえば、「青春」の綺麗な部分だけを集めた、“上澄み”とも言える輝きを持っていることだ。本作では日向坂46の4期生、その全員が映画初出演である初々しさを持って、私たちに輝きを見せてくれる。 本作は、日向坂46の4期生11人が、修学旅行で東京を訪れる様子を描いた“THE アイドルムービー”である。こうした単一のアイドルグループだけで成り立たせた作品では、日向坂46の『声春っ!』(日本テレビ系)や『DASADA』(日本テレビ系)、乃木坂46の5期生による『古書堂ものがたり』(Lemino)などが作られてきた。本作が特徴的であるのは、企画段階から11人全員にインタビューが行われ、彼女たちのリアルな物語が盛り込まれた脚本であり、それをもとに配役が決定されたことだ。 監督を務めたのは、『私の男』『#マンホール』『658km、陽子の旅』で知られる熊切和嘉。脚本は『HIGH&LOW THE MOVIE』シリーズの福田晶平が務めた。坂道系の映像作品はどれも気鋭のクリエイターが起用されることで、“ただのアイドルムービー”で終わらない強度のある作品が作られてきた。本作も例に漏れず一本の優れた映画である。彼女たちは東京で道に迷いながらも、前へ前へと進んでいく。 正源司陽子演じる“池園さん”は、せっかくだから東京の“ゼンブ”を見たいと班長に名乗り出て、東京の名所を周る過密スケジュールを組む。対して、実は他にやりたいことがある友達グループのほか4名。彼女たちは池園さんの目を逃れ、好きな男の子の後をつけたり、推しキャラクターのグッズを買いに行ったり、アイドルのオーディションを受けに行ったりと、それぞれ本音を隠したまま別行動に出る。それぞれが東京を楽しむ様子は、言ってしまえば“ふつうの高校生”なのだが、それこそ日向坂46の天真爛漫さが最も生きる役柄なのだろう。つまり、青春の“上澄み”だ。 興味深いのは、別行動をするための方便として使われた「別の世界線にいる」というセリフだ。そこで思い出したのは、地方出身の筆者にとって、東京というのは人生のタイミングごとに異なる意味合いを持ってきたこと。修学旅行先であり、観光すべき名所であり、就職先となり、そして生活拠点となる。そんな、バックグラウンドを誰とも共有していないことから生まれる地方出身者の孤独は、みんなに置いていかれた池園さんが感じていたものと似ていて、ある日の自分と思わず重なる瞬間があった。彼女たちの“分岐した世界線”はある形で収束するのだが、ふつうの高校生の、“ふつう”の修学旅行からは学ぶべきものが確かにある。 東京で迷ってばかりの『ゼンブ・オブ・トーキョー』はすなわち“ロスト・イン・トーキョー”であり、それは迷ってばかりの私たちの姿でもある。それでも、やっぱり“東京”に憧れていたいし、ずっと“おのぼりさん”でありたいと思う。それこそが私にとっての東京なのだから。
間瀬佑一