『海のはじまり』生方美久脚本ならではの優しい連鎖 “終わりのない海”が見つめるもの
心を掬い上げていく優しい連鎖
学生時代に互いのことを好きなまま別れた恋人同士である夏と水季は、海を通して互いを見つめる。時に「似てるなと思って見てただけ、夏くんに」と海を見て微笑み、時に「ママより大きくなるのは難しいんじゃない?」と聞く海に対し、「夏くん背が高いし、いけんじゃない?」と言う水季。一方、水季がいなくなった後、今度は夏が、「夏くん!」と呼ぶ海の声に水季の声を重ね、靴紐が解けたまま走る海の奔放さに、水季の姿を重ねている。 また、「相手に似るなら産みたい」「好きな人の子供ってこんなにかわいいんだ」とそれぞれに言う、会ったことのない2人である水季と弥生も思わぬ繋がりを見せる。弥生は、同僚の彩子(杏花)に丁寧に編み込んだ髪を「朝時間のある人の頭」と指摘され、さらに髪色を変えたことを気づかれたため、思わず「ごめんなさい」と口にする。「美容院って贅沢品だよね」と言う弥生の中には「産まなかったのが間違いとは思っていないの、正解とも言えないけど」と言いながら、どこかで、美容院で隣の席に座ったシングルマザーと自分を比べてしまうほどには負い目があって、かつて彼女が病院のノートに残した「強い罪悪感」は完全には消えていないことがわかる。でもそのノートに残された彼女の強い思いが、水季に中絶を思いとどまらせ、結果的に海が生まれていたという事実が描かれた時、そのことを弥生自身が知り得ないとしても、彼女の人生がそれだけで救われたような気がした。生方脚本ならではの、気づかないうちに誰かが誰かを救っていたという、優しい連鎖は、思わぬところで登場人物たちの心を掬い上げていく。 先週放送が第6話ということで、折り返し地点に辿りついた『海のはじまり』は、「母親のはじまりと終わり」について話す妊娠中の水季と朱音の会話の場面で締めくくられた。水季が母に「いつ終わるの?」と聞き、「死んでも終わんないわよ。お母さんどうせ先に死ぬけど、それでも水季のお母さん続けなきゃいけないんだから」と答える場面は、第1話冒頭の、海が、水季に「海のはじまりと終わり」を尋ねる場面に呼応しているように感じる。「終わりにみえるだけで、この先もずっと海」「終わりはないね、ずっと海で、その先にまた海岸がある」ように、母親もまた、終わりがない。海と、母が繋がる。『海のはじまり』は、海を通して、今はもういない大切な人を見つめる。
藤原奈緒