ドイツでハイデガー哲学が嫌われる本当の理由
ハイデガー協会会長の辞任
衝撃の大きさは、フライブルク大学のハイデガーの哲学講座を引き継ぐ著名な教授が、彼の反ユダヤ主義を理由にハイデガー協会の会長を辞任してしまったことにも示されている。 彼は現代ドイツの代表的なハイデガー研究者と目されており、それゆえ私の知る何人かの日本人研究者も彼のもとに留学したりしていた。つまり傍から見れば、彼こそはだれよりもハイデガーの名声の恩恵を被った人物だったのだ。にもかかわらず、その教授があっさりハイデガーを切り捨てたことに、いささか私は驚いた。 仮に問題となったハイデガーの言明が反ユダヤ主義的なものだとしても、その「反ユダヤ主義」なるものが何を意味するのかについてはなお解釈の余地があるだろう。 しかも本書(『ハイデガーの哲学 『存在と時間』から後期の思索まで』)で論じるように、くだんの言明は、少し検討すればそう単純に反ユダヤ主義的と言い切れるものではないことが明らかになる。 にもかかわらず、例の教授はそのような留保もすることなく、ハイデガーを反ユダヤ主義者と決めつけて縁を切ろうとしたのである。こうしたエピソードからも、ドイツにおいてハイデガーと関わること自体が今やいかに危険で、割に合わないと見なされているかがよくわかる。 * 【つづきの「「ハイデガーを読むのはやめなさい!」とマルクス・ガブリエルが日本人に警告したにもかかわらず、私たちがハイデガーを読むべき理由」では、現代のドイツにおけるハイデガーの具体的な扱われ方を轟教授が伝えます。】
轟 孝夫(防衛大学校教授)