両極のジャンルを電撃的に横断する「ギターの女神」猪居亜美
クラシックギターの若手演奏家の中でも長年トップを走り、国際的なギター・コンクール「ギター・ファウンデーション・オブ・アメリカ(GFA)」でも優秀な成績を残しているギタリスト、猪居亜美が、4月リリースの新作アルバム『My Immortal』を携えてお披露目ライヴを行う。 【全ての写真】新作アルバム『My Immortal』を携えてお披露目ライヴを行う猪居亜美 アルバムに収録されているのはすべてロック。エヴァネッセンスのアルバム表題曲に、ガンズンローゼズ、メタリカ、オジー・オズボーン、ランディ・ローズ、Xジャパンの曲が並ぶ。『CLASSIC×ROCK』と題されたコンサートでは、4歳のときから父親の指導のもと磨き上げてきたクラシックのレパートリーと、新作のロック/メタルの世界を前半・後半で演奏するエキサイティングなプログラムが組まれている。 「前半と後半ではPAも変わりません。私が使っているマーク・ウシェロヴィッチというギターは従来のクラシックギターより大きな音が出る楽器で、製作者自身が研究を重ねて私に合うものを作ってくれました。もう7年使っています。ギター自体がもともと音量の大きな楽器ではないのですが、タッチや音色に色々な可能性をもたらしてくれるんです」 幼少期は天才少女としてクラシックギターのエリートコースを歩むと思われていた彼女だが、実際のライフスタイルはロック/メタル好きで、高校時代はバンドでエレキギターを弾いていた。 「元々ライフスタイルの中にあったのがロックメタルでした。その方向でプロになろうと思っていた時期もありましたが、音大で真剣にクラシックギターを学ぶ決意をして、クラシックギターのプロ演奏家を目指しました。どちらのジャンルも好きだったのですが、クラシックは伝統を守らなければならないという意識がすごく強かったので、ジャンルの違うものを発信していくのは批判されるのでは…と躊躇していました。それでも、少しずつロック好きな面を出していくうちに『もっと堂々と出していっていいんじゃない』という話になって、周りからも背中を押してもらう機会が増えていったんです。今回の新作をリリースするレーベルのFontecとの出会いもそういう流れの中であって、どんどん活動が大きくなっていきました。クラシックギターの指導の先生方も、元々ベンチャーズがお好きだったりして、とても寛容に『好きにやってください』と。それでもクラシックの軸は崩さず、トレーニングは続けています」 「CLASSIC×ROCK」の形式で初めてライヴを行ったのはコロナ禍中の2022年。 「前半のクラシックはいつも通りに…後半は…本番までかなり緊張していましたね。アンコールで何曲かやるという形は過去にもありましたが、後半がっつりロックをやるというのは初めてだったので。果たしてホールでどう響くのか? 自分でアレンジをするという経験もほとんどなかったので、今よりもシンプルな形で作っていました。それに比べると、今回はアレンジも演奏も華やかになっていると思います。バラードも加わっていますし。アルバムのレーベルFontecのプロデューサーさんもロックメタルがお好きで、色々アドバイスをいただきました。当時はロックで緊張していましたが、続けていくうちに、今では逆にロックのほうが元気になっています」 クラシックやロックのレパートリーの演奏や、基礎練習法をアップロードしたYouTubeチャンネルはもうすぐフォロワー10万人に届こうとしている。 「YouTubeを始めたのは比較的早かったと思います。コロナでチャンネルを始めた演奏家の方たちも多かったので、今ではライバルが多くなってしまいました(笑)。発信することで見つけてくださる方もいて、それがリリースのきっかけになったりもしましたね」 まだ若いのに大人っぽい雰囲気が漂うのはプロとしての覚悟を持つのが早かったからだろうか。 「私は留学をしていないので、10代でデビューして、日本のクラシックギター界のことを早く見てきたせいかも知れませんね。ブレない姿勢で演奏を続けていこうという意識はつねにあるかも知れません」 得意とする80年代から90年代のロックメタルのレパートリーに反応して、最近では40~50代のファンが増えているという。クラシックギターのみのファンは60代がメインだったというが、刺激的なライヴを展開した今、広い世代からの人気が高まりそうだ。 取材・文:小田島久恵 <公演情報> 猪居亜美 ギター CDリリース記念ツアー CLASSIC×ROCK 大阪公演:2024年4月6日(土) あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール 東京公演:2024年5月11日(土) ヤマハホール