「スマホの罠」に堕ちた藤田菜七子騎手 「自覚の無さ」で終わらせていいのか
こうした態度をわが子に示しているIT企業トップはジョブズに限らない。マイクロソフトのビル・ゲイツも、子どもが14歳になるまでスマホを与えていない。 アップルの幹部トニー・ファデルはこう言っている。 「冷や汗をびっしょりかいて目を覚ますんだ。僕たちはいったい何を創ってしまったんだろうって。うちの子供たちは、僕がスクリーンを取り上げようとすると、まるで自分の一部を奪われるような顔をする。そして感情的になる。それも、激しく。そのあと数日間、放心したような状態なんだ」 フェイスブックの「いいね」機能を開発したジャスティン・ローゼンスタインなどは、「依存性ではヘロインに匹敵するから」として、本来は保護者がわが子の使用を制限するためのアプリを自身のスマホにインストールした。 ハンセン氏は言う。 「IT企業トップは子供にスマホを与えない」 科学作家の竹内薫氏も笑いながら言う。 「当然でしょう。スマホがどうして人を夢中にさせるのか、仕組みを知っている人間なら子どもに安易にスマホは使わせませんよ」 東大の物理学専攻でプログラマー、現在は子どもたちに英語からプログラミングまでを学ばせる最先端のフリースクールを運営する竹内氏までそう言うのだ。 人を夢中にさせる仕組みとは簡単に言えばこういうことだ。 そもそも人間の脳は、危険を察知する能力を高める方向で進化してきた。その結果、危機を脱する行為をしようとすると“ドーパミン”という物質を放出する。例えば、おいしそうな食べ物を前にしたとき、性的に興奮したときなどだ。太古の昔から脳は、飢餓から脱出せよとか、子孫を残せとかとわれわれに命じてきたわけである。 そして新しい知識を増やしたり、未知の何かに期待したりすることもまたドーパミンを増やす。知識は危機の察知につながる。学校の勉強が嫌いという人は珍しくないが、基本的に人の脳は新しい知識を歓迎するように作られているのだ。 問題は、スマホはのべつまくなし、こういう刺激を人に与えてしまう点である。ニュースサイトだろうとメールだろうとSNSだろうと、「新しいもの」に出会えば脳の“報酬システム”は作動する。 この仕組みを熟知して、利用しているのがゲーム会社やスマホメーカー、SNS運営会社なのである。 ハンセン氏によると、こうした企業の多くが行動科学や脳科学の専門家を雇っているという。