ラグビー日本代表「頑張らないといけない時に頑張れなかった」理由。W杯の敗因と求められる仕組み作り<RS of the Year 2023>
仕組みを作る役目は、日本ラグビーフットボール協会に
つまり、仮にアルゼンチン代表を下して決勝トーナメントに進めていたとしても、これから代表選手やその予備軍に国際経験を積ませるよう仕組みを考え直さなくてはならないのは、明白だったわけだ。 その仕組みを作る役目は、日本ラグビーフットボール協会(日本協会)に託されている。 日本協会は競技の普及と発展のためにある公益財団法人。日本代表を統括する立場にもある。ここで2019年夏から専務理事という重責を担う岩渕健輔氏は、日本きっての国際派だ。 試合不足に悩む2021年以降も、強豪国とのテストマッチを取りつけるなどできうる最善手を打ったことで知られる。何より、2023年以降の施策にも、人脈と知恵を生かしている。 ニュージーランド協会、オーストラリア協会と連携を深める覚書を締結したのは、フランス大会の直前期だ。 さらに、国際統括団体のワールドラグビーが世界最上位層の枠組みを変える際、日本代表が「ハイパフォーマンス・ユニオン」のメンバーとなったのも今年に入ってからだ。 ジョセフ率いる日本代表が世界8強入りした実績にも支えられ、日本ラグビー界の地位を向上させたのだ。 この変化は、翌年以降の代表戦のマッチメイクを優位に進めたり、南半球とのクラブ同士による公式大会を実現させたりすることにつながりそうだ。すなわち、多くの選手の経験値アップに大きな影響を与えうる。
ジョセフ体制はフランス大会限りで解散。次期指揮官は…
これからは準代表チームを創設し、選手層を拡大させるべきでは――。そのような趣旨で聞かれると、岩渕はこう言葉を選んだ。 「リーグワンのレベルアップのスピードと、短期的な代表チームの(理想の)強化スピードとでは、時間的なズレが出てくる可能性があります。そのため、短期的な強化をどれだけ進めるかも、協会は考える必要がある。サンウルブズ型の少数精鋭強化のシステムも、同時に作る必要があると考えています」 「(準代表チームの活動には)相手もいる(必要な)こと。ただ、流動的な国際的カレンダーにおいて、他国リーグの試合は埋まっています。選手のウェルフェア(休息と実戦経験のバランス)、リーグワンの試合数やレベル、代表チームの試合数やレベル、準代表のようなチームを作った場合にどのような相手と戦うかなどを、大きなパッケージで考えなければいけない」 ジョセフ体制はフランス大会限りで解散する。次期指揮官は、公募で集まった候補者のなかから最後に日本協会がチョイスする。注目の的となっているこの件についても、岩渕氏は、仕組み作りを絡めて語る。 「代表チームと、国内のラグビーと、代表チームに入る選手のプレー環境は一体で考えていかないといけない。永続的に強化できるシステムを協会は考える必要がありますし、代表チーム、代表チームを支えるスタッフは、システムそのものに対して協力いただく必要がある。そこもヘッドコーチ選考の上では大きなポイントになります」 日本協会の理事にも名を連ねる藤井は、次期ヘッドコーチの選任へこう言及する。 「委託業者に頼んだからという理由だけでは、選手もチームも納得しない。ただ、しっかりとした理由のもとヘッドコーチを選べば選手もついていくでしょうし、そのなかで必要なことがあれば私たちもサポートしていきたい」 ジョセフの率いていた日本代表のスタッフによると、岩渕氏が最近の代表チームの内部的な部分に深くタッチすることはなかったそうだ。ジョセフ体制が選手間、内部スタッフ間の絆を深めて無形の底力を発揮していた一方、岩渕氏は日本協会を「世界一のユニオン」とすべくそれを外から支えてきた。 日本協会の整えた仕組みを日本代表が生かし、日本代表が結果を出すことで日本協会の仕組みの価値を高める――。2024年以降には、そんな相乗効果を多く見せてほしい。 まずは選手に無理を強いない、かつ納得感のある仕組みを日本協会が作れるか。要注目である。 <了>
文=向風見也