「脱法ハーブは大麻の代替品として流通」 『脱法ドラッグの罠』著者・森鷹久氏に藤井誠二が聞く(第1回)
藤井:合成カンナビノイド。カンナビノイドっていうのは鎮痛とか多幸感をもたらしたりとか、そういうもともと医療系の目的でも使われる成分ではあるんですか。 森:そうですね。日本では本当になじみが薄いと非常に思うんですけど、例えばアメリカだったり欧米だったりというところでは、もともと「カンナビノイド」は自然の大麻に含まれているものです。大麻を吸って陶酔感、多幸感を得たりしているという方々は、大麻に含まれてる自然のカンナビノイドを摂取してそういうことになっているわけです。 藤井:つまりは大麻というものに含まれる、大麻はもちろん禁止をされていますけど、「カンナビノイド」という快感成分に似たものを、何かの葉っぱや植物と薬物等を混ぜ込んで作るというのがいわゆる危険ドラッグといわれるものですね。 森:そうです。大麻に鎮痛作用などがあるというので、そのカンナビノイドの成分を合成的に作ろうということで、化学者が合成カンナビノイドというのを作って、それの研究をしてるんです。今日その脱法ハーブ、危険ドラッグに含まれている成分は、そういったまっとうな研究の成果として生まれたものが誰かの手に持ちだされたのか、(そもそもの最初の端緒は)よく分からないんですけども、使用されるようになってという経緯みたいです。 藤井:なるほど。そうすると、もともとその化学式を作った人がいて、そういったレシピやマニュアルが回って、それにのっとっていろんな闇の業者が作っているというような、そういう構造なんですね。 森:そういう構造でおそらく間違いないと思います。
藤井:ドラッグというと、割と吸って気持ち良くなるとか、気分が明るくなるとか、それから眠気が飛ぶとか、いろんなイメージがあるじゃないですか。でも今の事件を見ていると、車を運転していきなりぶつかるとか、人を傷付けるとか、明らかに異常事態を引き起こしています。だからこそ危険ドラッグと呼ばれてるんでしょうけれど、今、売られているものはいったい何なんですか。 森:僕が「危険ドラッグ」の取材をし始めたのが、2011年ごろなんですけども、それ以前からいわゆる当時は「合法ハーブ」と言われていたものはあって、そのころは本当に大麻愛好家というかそういった方が、安くてどこでも手に入って、しかも捕まらず、吸えば大麻と同じような気分になるというので、割と大麻愛好家の方が脱法ハーブに流れているっていうような図式が確かにあったんですね。 藤井:なるほど。大麻の要するに代替品として流通を始めたんですね。 森:そうです。値段も割と3分の1ぐらいの価格で買えたりとかっていうのがあって、それで割と「地下」で地味に広がっていくんです。それが2011年くらいですね。これは私の調べなんですけど、薬物の包括規制を厚生労働省がおこなったんです。 藤井:禁止薬物の包括指定ですね。 森:そうです。2011年のころの包括指定は今のような大規模なものではなかったんですけど、そこを経たあと、ちなみにドラッグの第4世代から第5世代なんていう言い方をするんですけども、そこから僕の中では劇的にものが変わったかなと思います。 (第2回に続く) -------------- 森鷹久(もり たかひさ) 1984年生まれ、佐賀県唐津市出身。高校中退後、番組制作会社を経て出版社でヤングカルチャー誌やファッション誌を編集。その後、フリーランスの編集者・ライターになる。精力的にドラッグ問題を取材。 藤井誠二(ふじい せいじ) 1965年愛知県名古屋市生まれ。ノンフィクションライター。高校時代よりさまざまな社会運動にかかわりながら、週刊誌記者等をつとめながら一貫してフリーランスの取材者。『17歳の殺人者』(朝日文庫)、『暴力の学校 倒錯の街』(朝日文庫)、『人を殺してみたかった』(双葉文庫)、『コリアンサッカーブルース』(アートン)、『文庫版・殺された側の論理』(講談社アルファ文庫)、森達也氏との対話『死刑のある国ニッポン』(金曜日)、『アフター・ザ・クライム』(講談社)、大谷昭宏氏と対話『権力にダマされないための事件ニュースの見方』(河出書房新社)、『三つ星人生ホルモン』(双葉社) 等、著書多数。