「うつるから話しかけないで」クラスの友だちが急によそよそしくなった…ある障害を抱えた女性は「注文に時間がかかるカフェ」を開いた
でも驚いた。彼が生き生きと楽しそうに接客していたからだ。しかもお客さんも彼の言語障害を気にするそぶりがなかった。 「きちんと話せないと無理」という固定観念が、がらがらと音を立てて崩れていくような気がした。そして決めた。「こんな雰囲気のカフェを私も日本で作る」 ▽専業化のきっかけになった「吃音あるある」 帰国後の2021年8月、「注文に時間がかかるカフェ」を始めた。交流サイト(SNS)で同じ吃音を持つ仲間を募り、一緒に店員をやった。カフェの名前は、店員がオーダーを聞く時、言葉に詰まるから。お客さんは友人に頼んだ。 症状が出ても生き生きと接客する店員と、それを温かく見守るお客さん。オーストラリアで見た光景を再現した。 楽しくて、これなら仕事が休みの日に、年1回ぐらいで続けたいなと思った。その時は、まさか仕事を辞めて活動に専念するなんて思ってもいなかった。 きっかけは3回目の企画で、店員役として新潟から参加した男子高校生の言葉だ。
「これまで同じ吃音のある人に出会ったことがなくて、一人で悩みを抱え込んでいた。みんなで接客ができて良かった」 奥村さんは以前から吃音は外見では分からないから、隠して生きる人も多いと感じていた。「当事者同士で悩みを共有できず、孤立することがある。東京や大阪など都市部には当事者の団体があるが、地方には少ない」とも指摘する。 彼の話は「吃音あるある」の一つだった。「だったら私が出向けばいいや」。思い切って勤務先を退職した。 ▽沈黙はあるけど、気にしないで 活動も今年で3年目。これまで全国30カ所以上で、100人を超す当事者が店員を務めてくれた。体験後、表情が明るくなったり、外出が怖くなくなったりしたという反応を聞くのが一番うれしいことだ。実際にカフェで働き始めた人もいる。 カフェに参加した教員志望の大学生から「きちんと話せないんなら教員は諦めた方がいいと教授から言われてしまった」との相談を受けた。いてもたってもいられず、昨年末には「号令に時間がかかる教室」も始めた。教員志望の学生の当事者に模擬授業を通じて自信をつけてもらい、生徒役の一般参加者に症状を広く知ってもらいたいと思った。