去年より中国人の「ズル買い」が急増…”国民的大セール”で横行した「モラルなき買い物」
国民的セール「独身の日」
11月11日、中国で“独身の日(双11、ダブル・イレブン)” のセールが実施された。 【写真】これはヤバすぎる…!中国で「100年に一度の大洪水」のようす コロナ禍前まで、独身の日セールの期間中は海外ブランドのスマホ、アパレル製品やスニーカーなどを多くの中国人が買い求め、活況を呈してきた。アリババ・グループという一民間企業が始めたこのセールは、“改革開放”を進めて中国が高い経済成長を実現し、より良い生活を手に入れんとする国民の増加を象徴するイベントだった。 ただ、今年のセールの結果を見ると、昨年以上に消費者の節約志向の高まりが鮮明化している。売り上げを伸ばすための値引き競争は激化した。その背景には、中国の不動産バブルの後始末の目途が立っていないことがある。 過去20年間、中国経済は、マンション建設、インフラ整備など投資を積み増し、空前の不動産バブルを謳歌した。その間、雇用が生み出され所得は伸びた。好調な輸出や消費の増加で、設備投資は加速し経済成長率は上昇した。 ところが、2020年8月の不動産融資規制をきっかけに、中国の不動産バブルは崩壊に向かった。住宅価格は下落し、過去のピーク時にGDPの3割近くを占めた不動産関連投資は急減。デフレ圧力も高まった。人々は節約志向を強め、消費を先送りするようになった。 中国政府には、景気刺激のための経済対策が必要だろう。 しかし、今のところ政府は、金融の緩和、公債の発行増加による投資と生産を優先している。こうした政策の影響によって過剰生産能力はさらに拡大するだろう。モノやサービス価格が下落しやすくなり、デフレ環境が深刻化する恐れがある。 来年1月20日、米国では対中引き締め策の徹底を重視するトランプ政権が発足する。トランプ氏は11月25日、中国からの輸入品に対して10%の追加関税を課すと表明した。中国経済の先行き懸念は、一段と高まることが懸念される。
冷める中国の消費熱
10月14日、アリババと京東集団(JDドット・コム)は、昨年よりも前倒しで2024年の独身の日セールを開始した。調査会社の星図数据(シントゥン)の推計値によると、EC(電子商取引)プラットフォーム全体の売上高は、昨年から26.6%の増加で1兆4,400億元(約29兆円)だった。 伸び率自体を見ると、昨年よりも売上高は増えている。だが、必ずしも額面通りに受け止めることはできない。 中国内外の報道では、昨年以上に消費者の支出意欲が低下したとの指摘は多かった。まず、今年のセール期間は昨年より10日長かった。期間が長くなれば、それだけ売り上げが増えるのは当然だろう。 また、販売促進イベントも大規模だった。業界最大手のアリババは300億元(約6,000億円)の割引券を配布して消費の喚起を図った。セール期間中に一定額を購入すれば、追加の割引を行う企業や個人商店も増加した。 しかし、中国の消費者行動は企業の思惑通りにはなっていない。 今回、こうした割引特典を受け取ったあと、必要な商品以外を返品するという悪質なケースが急増したようだ。 独身の日セールで1元でも安いモノを買い求める今年の消費者の行動は、経済成長率の上昇で生活水準の向上を求めたかつての中国消費者の姿とは対照的だ。 独身の日セールは、2009年にアリババがマーケティング戦略の一つとして開始した。創業者のジャック・マー氏は毎年、セール開始前にカウントダウン・イベントを開催。ニコール・キッドマンなど著名俳優やアーティストを招くなどして、賑やかな雰囲気を演出してきた。 IT先端企業が、世界の有名ブランド品、食料品などを大量に仕入れ、手ごろな価格で販売する。一方、消費者は日米欧などのライフスタイルへのあこがれを満たす。マーケティング戦略の視点からすると、それが独身の日セールの本来の姿だったといえるかもしれない。 それが今や、安価な買い物ができる単なるバーゲンセールになっている。 つづく記事〈もう「爆買い」できません…消費低迷の中国に忍び寄る「リストラの嵐」〉では、デフレ圧力が強まる中国の現状と今後をさらに詳しく解説する。
真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授)