メーカー自身が認定し、工場検査後に販売するパナソニックの中古家電
新しい商流を作る試みだ。 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「日本において、家電のサーキュラーエコノミー(循環経済)の新たな仕組みを作る。この取り組みは、結果として、パナソニックファンを増やすことにつながる」 メーカー認定の再生品 パナソニックが、検査済み再生品「Panasonic Factory Refresh」の販売を開始した。 店頭展示の戻り品や初期不良品、サブスクリプションサービスの契約終了後の商品などを対象に、パナソニックの製造拠点やサービス拠点で再生し、厳格な出荷基準を満たした商品だけを「Panasonic Factory Refresh」として販売する。 同社の公式ショッピングサイト「Panasonic Store Plus」を通じて購入でき、買い切り型での購入だけでなく、サブスクリプションサービスとして利用することも可能だ。 パナソニックマーケティングジャパンの宮地晋治社長は、「Panasonic Factory Refreshは、家電におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)の新たな仕組みを、日本のなかに作ることに力を注ぐところから始める。経済産業省の『成長志向型の資源自律経済戦略』に沿いながら、日本の企業として、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、積極的に参画し、貢献をしたい。今回の発表は、その意思表明であり、新たなスキームを作るためのスタート地点に立ったところである」と位置づける。 宮地氏は、パナソニック 執行役員 コンシューマーマーケティングジャパン本部長およびパナソニックくらしアプライアンス社副社長国内マーケティング担当も兼務している。 再生方法にも気遣い、メーカー保証も付く 同社では、2023年6月から、ヘアードライヤー ナノケアのリファービッシュ品を、サブスクリプションサービスで提供を開始していたほか、2023年12月からは、ドラム式洗濯乾燥機と4K有機ELテレビのリファービッシュ品の販売を開始。2024年2月からは、卓上型食器洗い乾燥機(食洗機)のサブスクリプションサービスを提供してきた経緯がある。 2024年4月からは、ポータブルテレビ、ブルーレイディスクレコーダー、ミラーレス一眼カメラ、冷蔵庫のリファービッシュ品の販売を新たに開始。2024年9月には、電子レンジと炊飯器を加える予定であり、10カテゴリーにまで拡大する。そして、今回の発表にあわせて、これらを「Panasonic Factory Refresh」のブランドで展開することになる。 販売価格は、商品カテゴリーやニーズの変化、在庫状況、時期、商品個体の傷、使用期間などによって決まるため、固定されるものではないが、冷蔵庫やドラム式洗濯乾燥機の場合、現時点では、通常販売時の約2割引きで販売されているという。 再生方法はカテゴリーによって分かれる。 ドラム式洗濯乾燥機の場合は、栃木県宇都宮市の宇都宮工場のPanasonic Factory Refresh向け専用工程によって実施。外観確認を行い、本体および付属品を確認したあとに、クエン酸洗浄や高圧スチーム洗浄を行う。ドラム内のカビや汚れなどを完全に除去し、洗剤投入口なども新品のようにきれいにクリーニング。その後、動作確認を行い、梱包して出荷する。 また、有機ELテレビの場合も、宇都宮工場の専用工程で再生。必要に応じて、基板に搭載されている部品の交換などを行うほか、ホワイトバランスの調整や性能検査、安全検査などを実施してから、出荷することになる。なお、宇都宮工場は、テレビの生産などを行っていた拠点で、現在はテレビなどの補修部品を生産している。Panasonic Factory Refreshの再生には最適な拠点といえる。 一方で、ヘアードライヤー ナノケアなどの小物家電の場合は、サービス工場で再生するが、こちらは、クリーニングが中心となる。外観の傷が3つまでとなる「A級品」だけが対象となり、傷が多い場合にも筐体部品を交換することは行わず、再生から除外する。今後は、さらに傷が多い「B級品」についても取り扱いを検討していくというが、社会の許容性や環境への貢献度、Panasonic Factory Refreshの需要量などを捉えながら、方向性を決めていく考えだ。 「Panasonic Factory Refreshは、まだスタートしたばかりであり、あらゆる部分で改善や挑戦をする必要がある。審査基準をどこまで緩和をするかといったこともそのひとつである。循環型社会への貢献度や価値の提供という点も考慮しながら検討を進めていく」と語る。 パナソニックファンを増やすことが重要な目的 今回のPanasonic Factory Refreshの取り組みは、パナソニックが、メーカー保証の中高再生品の販売を開始したという観点だけで捉えるものではなく、もっと大きな視点で捉える必要がある。 それはひとことでいえば、「パナソニックファンを増やすこと」である。 そして、同社が取り組んでいる指定価格による「新販売スキーム」や、商品を販売したあとも、顧客とIoTでつながり続け、長く安心して利用できる環境を提案する「新・商売の基準」の取り組みとも、密接に連携するものとなっている。 たとえば、新販売スキームでは、商品価値に見合った適切な価格で販売することを目指しており、これまでにように、発売から一定期間を経過すると2割以上の値下げが行われるという商習慣から脱却を狙っている。だが、新たな機能を搭載した商品を、より求めやすい価格で購入したいというニーズがあったり、値下げを柔軟に行う他社との競合環境によって、一部製品では指定価格を引き下げたりしているのが実態だ。ここにPanasonic Factory Refreshを、戦略的に投入するといったことも可能になる。 宮地社長は、「Panasonic Factory Refreshを、『体感の入口』に使ってもらうことができる」と語る。 Panasonic Factory Refreshの対象は、先にも触れたように、新販売スキームの対象商品を中心にしている。新販売スキームの定着によって、開発リソースを新製品に集中させることができ、それによって生まれたパナソニックらしい感動を生み出す商品によって使用体験価値を高めるためのもうひとつの提案手法を、Panasonic Factory Refreshによって実現することになる。 また、パナソニックでは、指定価格制度と連動する形でSCM改革に乗り出しており、生産拠点と連動した安定的な供給と、最適な在庫コントロールをもとに、いつでも購入できる環境を実現しようとしている。ここでも、Panasonic Factory Refreshを組み合わせることで、店舗における在庫の考え方を変えたり、需要期においては新品だけではない新たな販売提案が可能になったりする。 一方、「新・商売の基準」では、IoT接続によって収集したデータをもとに、稼働状況を分析。アプリを通じて、困りごとや使いこなしに関するお役立ち情報や便利機能の紹介、電気代の目安の可視化、自動化した節電運転などによる省エネサポート、異常検知、メンテナンスの啓蒙などを行っている。こうした取り組みを続けることにより、長期間に渡って、高いパフォーマンスを維持したまま、家電を利用できる環境が整うる。これは、将来的には、Panasonic Factory Refresh向けに品質の高い商品を確保することもつながる。 また、この仕組みが整うことで、ユーザーは、自分の生活に適した機能を搭載した商品が発売された際には、使っている家電を下取りに出して、次の商品に買い替えることができるようになる。しかも、排出した家電がPanasonic Factory Refreshによって再生利用されるのであれば、環境面でも負担を感じることはない。パナソニックの家電を選択したいと思う、新たな価値を提案することにもなる。 さらに、新販売スキームの定着によって、これまで毎年新製品を発売していたサイクルを改善し、2~4年の一度のサイクルに長期化すれば、機種数が減少し、修理用部品の点数を削減でき、同時に部品の保有期間の長期化につなげることができる。これは、Panasonic Factory Refreshを購入しても、長期間に渡って安心して利用できる環境づくりにもつながる。 宮地社長は、「パナソニックならではの感動を生む商品を作り続け、家電の購買体験価値、使用体験価値を感じてもらうことに加えて、パナソニックが、環境においても価値があるブランドであることを認知してもらいたい。その結果、パナソニックファンが増え、圧倒的支持を得られる家電メーカーになれれば、家電事業全体を成長させることができる。ブランド価値を高めながら、圧倒的なポジションを作り上げたい」と語る。 Panasonic Factory Refreshは、パナソニックファンを増やすための重要なピースとなる。 文● 大河原克行 編集●ASCII