共に「扉を閉じる」旅に出掛けることになる鈴芽と草太（Ｃ）２０２２「すずめの戸締まり」製作委員会

　５日の金曜ロードショー（後９時）は、放送枠を３０分拡大して、新海誠監督の「すずめの戸締まり」（２０２２）年が本編ノーカットで地上波初放送される。公開時には１４９・４億円の興行収入を記録。「ＯＮＥ　ＰＩＥＣＥ　ＦＩＬＭ　ＲＥＤ」（２０３・３億円）にトップは譲ったものの、大ヒットとなったほか、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にも出品された。 　宮崎に住む女子高生・鈴芽はある日、「扉を探している」という青年・草太と出会う。草太は扉の向こう側から現世に訪れる災いを防ぐために扉を閉める「閉じ師」の家系。だが、２人の前に現れた謎の猫・ダイジンによって草太は椅子に姿を変えられてしまった。 　ダイジンを捕まえるため、街を飛び出す鈴芽。だが、その先々で扉が開き始める。不自由な姿になった草太と共に、その扉を閉じる旅に出掛ることになった鈴芽はやがて、自らの過去と対峙（たいじ）することになる―。 　「光の魔術師」と呼ばれる新海監督の真骨頂ともいえる映像美で圧倒。一気に引き込まれる一方で、物語が進むにつれ、鈴芽のつらい記憶が鮮明になっていく。公開時には「本作には、地震描写および、緊急地震速報を受信した際の警報音が流れるシーンがございます」との注意喚起が行われた。 　ただ、悲しみの先にある希望と愛がこの物語のテーマであることは不変。新海監督も今回の放送にあたり「『すずめの戸締まり』は現代日本を舞台にした冒険エンターテインメント映画であり、同時に、災害によって失われてしまった日常を取り戻すまでの物語でもあります。１３年前に起きた東日本大震災の、未だ胸の中で収まらないその巨大な揺れを感じながら、私たちはこの映画を作りました」とコメントしている。 　ところで、新海監督は「ポスト宮﨑駿監督」と言われることもあるが、本人はどのように感じているのだろうか。今作では、その心の中がのぞけそうなシーンが登場する。物語後半、鈴芽は”最後の旅”に出掛けることになるのだが、その時に流れる曲は「ルージュの伝言」。そう、２週前に金ローで放送された「魔女の宅急便」（１９８９年）で、主人公のキキが故郷から旅立つ時に流れる曲である。しかも、そのシーンでのある登場人物のセリフは、同作を知っていることを前提としたものでもある。 　新海監督は、アクションロールプレイングゲームの傑作として知られる「ザナドゥ」や「イース」などを世に送り出した日本ファルコムで映像製作を行っていたところからアニメーションの世界に入った。スタジオジブリとは”別ルート”ではあるが、影響を受けていることは間違い無く、本作のオマージュも、宮﨑監督への畏敬の念と挑戦といったところだろうか。他にもジブリ作品に関するワードが出てくるところがあるので、注意してみてもらいたい。（高柳　哲人）