『虎に翼』“表情”で語る伊藤沙莉の表現力 「はて?」に向き合い続けた寅子の成長
“複雑な感情”を絶妙な塩梅で表現し続ける伊藤の芝居力
ユニークなのは、寅子が自分の信念や主張を曲げずに貫いてきたわけではないということ。寅子は常に「はて?」という自分の中の疑問と対峙し続けてきたのだ。見てみぬふりをせず、誰かに解決を委ねることもなく、自分が生きる過程でひとつひとつ丁寧に答えを考えてきた。時には悩んだり迷ったり、ぶつかったり挫折を経験しながらも、「こうなんじゃなかろうか」という想いを握りしめて東奔西走してきたのだ。 伊藤は、寅子を愛嬌たっぷりに演じるだけでなく、心の内でどれだけぐるぐると思考を巡らせているのかというところを表情で雄弁に語る。納得のいかない想い、でもまだ答えに行き着かない想いなどの複雑な感情を勝手に「悲しみ」や「怒り」に当てはめるのではなく、絶妙な塩梅で表現し続ける。こうした伊藤の芝居の力が寅子という人物をよりわかりやすくお茶の間に届けてくれたからこそ、我々は寅子に寄り添うことができるのだ。 第13週のラストには久しぶりの「モンパパ」を歌う寅子の笑顔も見られた。家庭裁判所の広報月間も無事に終わり、ひとつの区切りのようなものが感じられた。寅子たちのラジオ出演と愛のコンサートの成功で家庭裁判所の存在は世に大きく知らしめられることとなるだろう。週明けの寅子を取り巻く環境にも大きな変化が訪れそうだ。
Nana Numoto