投資対象としてJ-REITの特徴を再チェック リターンとリスクはどの程度?
リスクにも注意しよう
ここまで見てきたように、J-REITは小口でも不動産に投資できるように設計された金融商品で、リスクも比較的限定されています。とはいえ、そのリスクの中身については理解しておくことが重要です。 まず、一般の株式、とくに一般の不動産会社株に比べて価格変動が比較的緩やかとはいっても、それなりに価格は動き、ときに大きく下落するというリスクが当然に存在します。 また、J-REITには投資家を保護する仕組みがいくつも組み込まれていますが、そうした仕組みがうまく機能しないリスクもないわけではありません。 まず、J-REITは、投資法人という“器”を使うことによって、特定の利害関係者の破たんなどに巻き込まれないような仕組みとなっています。しかし、投資法人も企業ですから、事業が立ち行かなくなれば破たんしてしまうリスクがあります。 実際に、2008年にニューシティレジデンス投資法人が民事再生法の適用を申請して上場廃止となった事例があります。当時は金融危機のさなかでしたが、ニューシティはそれ以前に締結していた大型物件の取得費用を工面することが出来ず、また違約金が取り決められていたことから取得契約を破棄することもできず、民事再生の道を選びました(その後、大和ハウス系のビ・ライフ投資法人に救済合併され、現在は大和ハウスリート投資法人となっています)。 次に、J-REITは一定の条件を満たした場合に、投資家への配当に対する法人課税が免除される仕組みになっています。この“導管性”がJ-REITの投資価値を担保する大切な要素になっているわけですが、その条件を満たすことが出来なくなるおそれが生じた事例が、2007年に発生しています。 FCレジデンシャル投資法人(現在は合併により、いちご投資法人)の投資口が、プロスペクトという投資ファンドに大量に買い占められ、法人課税の特例が認められなくなる懸念が生じて投資口価格が大きく下落する事態になったのです。(当時は、投資口保有上位3社の保有率合計が50%以下であることが条件の一つとなっていましたが、一時的にこの比率を超過してしまいました。最終的には、配当の権利確定時点の保有比率が50%以下に抑えられたため、法人税課税という事態は何とか避けられました。なお、現在ではこの規定は少し緩められ、1社で投資口保有比率が50%以下と改められています。) J-REITは、インフレに強く、安定的な配当もたらす特色ある投資対象です。一般投資家にとって、J-REITが有するこのような性質は、長期的な資産形成を考えるうえでとても重要なポイントになります。ですから、J-REITの仕組みや特徴を十分に理解して、自分の投資対象の一つに加えることができれば、それはとても大きなメリットを生むことになるでしょう。ただし、適切な投資をしてメリットを存分に享受するためには、そのリスクについても十分に理解しておくことがとても大切なことなのです。 (ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役・田渕直也) 著書に『入門 JーREITと不動産金融ビジネスのしくみ』、『入門 金融のしくみ』『世界一やさしい金融工学の本です』(すべて日本実業出版社)。