宇宙は日本の産業力を発揮できる場【SENSORS】
「宇宙ビジネス」や「宇宙産業」という言葉を耳にする機会が、近年大幅に増えている。しかし、私たちの日常生活と宇宙とは、まだ遠くかけ離れたものだと感じる人も多いのではないだろうか。 今回は、宇宙をもっと身近にしたいと考えるエキスパート3人に、日本テレビのアナウンス部と宇宙ビジネス事務局とを兼務する宇宙アナウンサー浦野モモが話を聞いた。宇宙に関連する事業に携わる中で彼らが感じてきた、宇宙の可能性とは。
■国境のない宇宙で、日本ができること
ソニーグループ株式会社宇宙エンタテインメント推進室 室長の中西吉洋さんは、宇宙ビジネスに関心を持つ社員を率い、2023年1月にソニーのカメラを搭載した人工衛星『EYE』を打ち上げた。このプロジェクトは、誰もが宇宙や地球の写真を撮れるようになったら面白いはずだという、社員たちの想いから始まった。 「テレビ、スマートフォン、プレーステーションなど、さまざまな製品を作っているメンバーが衛星作りに関わりました。ソニーグループにはアーティストもいるので、宇宙から撮影した素材を使って、新たな作品を生み出すのも面白いのではないかと話しています」
ソニーの人工衛星プロジェクトには、株式会社天地人 取締役COOでJAXA 主任研究開発員の百束泰俊(ひゃくそく・やすとし)さんと、弁護士で一般社団法人スペースポートジャパン設立理事の新谷美保子さんの協力もあったという。 「百束さんからは人工衛星を安全に開発するためのアドバイスなどをいただき、新谷先生には契約や法律面でご協力いただきました。衛星を作るだけじゃなく、必要な準備や未知の法律を知るのも、すごく面白いです」 今や多くの人びとの関心を集める宇宙ビジネス。しかし、10年前にはほとんど仲間がいなかったと、新谷さんは当時を振り返る。2011年に弁護士事務所からの派遣でアメリカへ留学したときに、アメリカの宇宙ビジネスが日本とは比較にならないほど進んでいると知り、衝撃を受けたという。 「アメリカでは、すでにイーロン・マスク氏の会社(スペースX社)が創立10周年を迎えるころで、当然のように民間企業が宇宙事業を展開していて、ルールも整いつつありました。一方、日本にはスペースローヤー(宇宙を専門とする法律家)もおらず、宇宙事業に対する国家予算は現在の半分程度。国益を損なう可能性さえあると知ったんです」