宇宙は日本の産業力を発揮できる場【SENSORS】
新谷さんはまた、宇宙には国境がないため、世界規模での競争が起きるのではないかと懸念した。日本の産業力を守り、活かすことが重要であると考え、事務所の理解を得て宇宙を法律面でサポートする活動を始めた。当時は1人だったが、年々仲間が増え、現在では大規模なチームとなっているそうだ。
■宇宙研究を活かす、柔軟な制度が整うJAXAの例
株式会社天地人の創業前、長年JAXAで地球観測衛星の開発を担当してきた百束さんは、日常生活に"宇宙"を活用する取り組みを進めている。自身が開発に関わった衛星のデータを活用する会社を立ち上げ、宇宙(天)のデータと地上のデータをかけ合わせるという意味で「天地人」と名づけた。 「衛星のデータを活用する仕事がしたいと考えていたときに、JAXA内で起業ができる『JAXAベンチャー』という制度が始まり会社を立ち上げました。最初は、自分の衛星のデータを使いたいという思いが強くてビジネスとしてうまくいかない時期もありました。試行錯誤や仲間との議論をくり返す中で、ビジネスをする以上は地上の人の役に立ち、誰かの課題を解決することが最も大切だと考えるようになりました」
JAXAは、宇宙への知識や技術を広く活かすための起業や出向などの制度を整えている。新谷さんは、そのようなJAXAの制度を法的側面から支援している。 「JAXAの中には、ビジネスに活用できそうな知的財産がたくさん眠っています。それらを活用してJAXAの社員が起業されたり、そこに投資される方がいるときに、私がサポートすることもあります」 これらの制度は、宇宙研究の成果を最大化するために不可欠であると、百束さんは考える。 「研究って、別の何かとかけ合わさると、成果が10倍にも100倍にもなるんです。JAXAには、ビジネス的な価値があるものはもちろん、お金にはならなくても、世の中をものすごく良くする技術がまだまだ眠っていると思います」
■日本の産業力を生かす「宇宙ビッグデータ米」
宇宙データと地上データをかけあわせた身近な事例として、天地人では「宇宙ビッグデータ米」という米作りに取り組んでいる。人工衛星のデータから最新の気候条件などを分析し、作りたい品種ごとに最もおいしい米が作れると予測される場所を選び出すという。 「人工衛星って、僕らが知らない間も、過去からずっと健気に観測しているんですよね。そのデータを束ねて分析して、地上のデータとかけ合わせて、どこでおいしいお米が作れるのかを探します。地上には、今までおいしいお米が取れた場所や天候の影響による病気などのデータがたくさんあるので、それらと組み合わせてベストな場所を予測しています」
国境のない宇宙で、日本の産業力を発揮するチャンスは、すでに目の前に広がっている。宇宙がもっと身近になり、より多くの人が宇宙産業に携わることで、日本が世界をリードする未来がやってくるかもしれない。