震災・原発事故13年 被災農地の行方(上) 太陽光転用申請が急増 「営農型」畑荒れ是正指導も
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した浜通りの農地は、営農と再生可能エネルギー発電のはざまで大きな課題を抱える。県は県内エネルギー需要の100%を再エネで賄う目標を掲げており、被災農地には太陽光発電の県外企業が次々と進出する。耕作放棄地の活用につながる一方、設置後の管理が不十分な事例が確認されている。震災と原発事故の発生から間もなく13年。農業復興の在り方、再エネ振興と共存する農業の方向性を探る。(文中敬称略) 「またか…」。浪江町農業委員会長の佐々木茂夫(70)は書類に目を落としつぶやく。営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を設置するための農地転用許可申請が相次いでいる。町農業委が受けた今年度の農地転用の申請は昨年12月末時点で123件。7割超の89件は太陽光発電関連で、ここ数年増加傾向にある。営農型は比較的小規模な土地にも設置できる。設置場所や計画に不備がなければ申請を拒む理由や権限はない。
佐々木は、申請者が農地を見ずに行政書士を通して手続きする事例が散見されると指摘する。太陽光パネルの下で栽培されるのは神棚に供えるサカキがほとんど。東日本大震災前から町内で生産されてきたコメなどの主要作物ではない。「太陽光パネルが点在し、地域の農業の形が変わってしまうのではないか」と心配する。 パネル下での営農継続が営農型太陽光発電の条件の一つだ。しかし、除草などの管理が十分でないため町が事業者を指導する事態も起きている。花卉(かき)類やタマネギの生産振興を目指す浪江町は改正農業経営基盤強化促進法に基づき、農地の将来像を定める地域計画の策定を進めている。町民らからも農地に太陽光パネルが増えることへの懸念の声が上がる。「このままでは見せかけの営農再開ではないか」。佐々木の表情は晴れない。 ◇ ◇ 営農型太陽光発電施設が十分に管理されていないのは、浪江町だけの問題ではない。浜通り12市町村を管轄する県相双農林事務所によると、管内の設備設置申請は2021(令和3)年度までは既存設備の更新を含め年間10~20件程度で推移したが、2022年度は約200件に急増。原発事故に伴う避難指示解除の進展や復興特区の税制優遇などが背景にあるとみられ、管理不十分な事例も同時に増えた。昨年6~10月、無作為に選んだ管内の施設48カ所を調査したところ約7割で作物が枯れていたり除草されていなかったりした。