<シニア男性限定!>料理サークル「おとこの台所」が支持される秘訣
トントントン。ジュワーッ──。小誌記者が訪れるとそこには、台所特有の調理音が鳴り響き、香ばしいにおいが漂っていた。 【画像】<シニア男性限定!>料理サークル「おとこの台所」が支持される秘訣 「それは大匙で量るんじゃない?」「これは半分に切ってから、斜めに切るんだよ」 こう言って、和気あいあいと料理をしていたのは、シニア男性たち。彼らが所属するのは、「おとこの台所」と呼ばれる定年後の男性限定の料理サークルだ。2002年から始まったこの活動は、東京・世田谷区民や近隣住民で構成され、会員数は現在280人ほど。参加者の平均年齢は80歳近くで、最高齢には94歳の方もいるという。 参加者のほとんどは料理初心者だが、冒頭のように、各々の手際の良さや支え合う雰囲気が目立った。「妻が社協に電話をして、または友人の紹介、ホームページを見て入会する人が多い」と話す(世田谷区)松原(地区)代表の峯清秀さん(81歳・写真中央)は、雰囲気を守り続ける秘訣をこう語った。「『命令しない・いばらない・前職のことは話さない』という3つのルールは守ってもらっている」。 また、レシピは本格的で、この日は、生バジルを刻んでつくる「鶏もも肉のバジルソース」、イカをおろしてつくる「イカとモロコシのバターライス」など、一風変わった料理が並んだ。入会前から料理経験豊富な厨房担当の別府一敏さん(76歳・写真右から2番目)は、はにかみながらこう話す。 「いわゆる家庭でよく作られる料理では、妻と料理について喧嘩になってしまうこともある。独自性をもたせるため、このようなレシピが多い」
肩書を捨て、集う意味
「おとこの台所」は世田谷区社会福祉協議会が支援する『支えあいミニデイ』として活動していて、食材費や場所代、光熱費代として区の補助があり、1人500円で参加できることも魅力の一つだ。買い出し担当が食材購入する際は、どのスーパーでいくらで購入したかを共有している。まさに、会社員時代などに培った経験を活かした運営が行われている。 デザートも食べ、幸せな表情が並ぶ団欒の中、各(地区)台所の厨房担当の講習会も兼ねて、反省会が行われた。「茄子の切り方がバラバラだと火の通りが偏るので気をつけたい」などの意見は各台所に持ち帰り、次に活かす。ただ楽しむだけではなく、「よりおいしく」という気持ちが感じられた。 参加者に「おとこの台所」に入会してからの期間を聞くと、1年の人もいれば、5年や8年、長い人だと10年、20年という人もいた。なぜ続けられるのか。記者が締めの会で問いかけると、参加者から次のような答えが口々に返ってきた。 「やっぱり、楽しいから」「自然体でいられるし、しがらみもないからね」 定年後に肩書を捨て去り、今までとは全く違った環境で新しいことに取り組む。その理想形のような居場所が、ここにはあった。
野口千里