「倉庫に登録ない拳銃」管理簿に記録なし、引き継ぎなし 滋賀県警の証拠品放置問題の背景は
滋賀県警の7警察署で、過去に取り扱った事件の証拠品など約3800点を長期間にわたり放置していたことが、今月中旬に発覚した。殺人事件や未解決のまま公訴時効が成立した事件も含まれていた。客観的な証拠を重視する刑事司法にとって、証拠品は公平な裁判を支える公共物だ。管理体制に問題はなかったのだろうか。 【画像】主な放置されていた証拠品の一覧 彦根署の倉庫で昨年10月に証拠品登録されていない拳銃などが見つかり、これを受けた県警の全警察署に対する調査で問題が明らかとなった。 県内7警察署で放置されていたのは拳銃や覚醒剤、包丁などで、1975年ごろ~2014年ごろに押収したものとみられる。全体の約6割にあたる2千点以上が何の事件の証拠品かさえ分からず、特定できた323事件では9割以上の305事件が時効を迎えていた。 県警は警察官約70人に聞き取りを行い、「意図的な放置や隠蔽(いんぺい)はなく、事件捜査への影響はない」(刑事企画課)と釈明するが、詳しい経緯や責任の所在は不明なままだ。 県警の内規では、押収した証拠品は、頻繁に出し入れする「短期保管」と押収から一定期間が過ぎた「長期保管」に区別し、管理簿にそれぞれ記録する、としている。押収した日付や場所、所有者をパソコン上または紙に記載し、各署にある専用の保管庫に収めるという。 では、なぜ今回放置される事態に至ったのか。各署では月1回、管理簿の記録と保管庫にある証拠品が一致するかを点検するものの、放置された証拠品は全て管理簿に記録がなかった。また、保管庫ではなく倉庫や段ボールの中に置かれており、点検の対象から漏れていたようだ。人事異動時の引き継ぎも行われていなかった。証拠品の不適切な取り扱いが、長期間にわたる放置という重大な結果を招いたといえる。 警察庁は12年、証拠品の一括管理や点検の合理化を求める通達を全国の警察に出した。しかし、14年には愛知県警で証拠品の大量投棄が判明。16年には大阪府警で1万点近くの証拠品が放置されていた。福岡県警や沖縄県警、警視庁など同様の事案は後を絶たない。 証拠品の管理は重要性を増している。10年の刑法、刑事訴訟法改正により公訴時効が殺人罪で撤廃、傷害致死罪などで延長された。裁判員裁判の導入や科学鑑定の進歩も合わせ、証拠品の有無や保存状態が裁判に与える影響は大きい。 全国の警察では、証拠品1点ずつにICタグ(電子荷札)やQRコードを付けて庁内のネットワークと結ぶなど、デジタル管理が進められている。 県警では16年から、各署で長期保管する証拠品を収める「証拠品等管理センター」を近江八幡署(近江八幡市)の庁舎内に開設し、一括管理を始めた。各署では時効が近づくとパソコン画面に警告が表示されるシステムを導入している。 今回の問題発覚は、対策の真っただ中だった。池内久晃本部長は記者会見で「再発防止を徹底したい」と謝罪した。県警は改めて証拠品管理に対する重い責任を強く意識する必要がある。 ◇ 「第三者委員会で検証すべき」 渡辺修甲南大名誉教授(刑事訴訟法)の話 県警は今回の事案で捜査に影響はなかったとしているが、放置証拠が事件解明上どんな役割を果たせたのか、全体像が分からないのに判断のしようがない。放置証拠を正しく評価することで早期に事件が解明できたのか、第三者委員会で検証すべきではないか。 刑事裁判では、一つ一つの証拠が真相解明を支えている。それをおろそかにすれば、土台を崩すことになる。冤罪を防ぐためにも、証拠を大切に扱う意識が捜査機関には不可欠だ。