ドジャースは本当に“短期決戦に弱い”のか?――プレーオフと「運」の厄介な関係――<SLUGGER>
奪三振率はリーグ12位とかなり低く、良かったのはDRS2位の守備力だけ。ワールドシリーズの対戦相手Dバックスは、クローザーのポール・シーウォルドはまずまずでもチーム奪三振率はリーグ12位で、偶然にもレンジャーズとまったく同じ。DRS43は3位とこちらも守備は良かったけれども、早期敗退したブルワーズやツインズの方がもっと3つの条件に当てはまっていた。 実は、すでにBP自体が「シークレット・ソース」を満たしたチームの優勝確率は50%強で“コインフリップと大差なかった”と認めている。そして、鍋ごとゴミ箱行きとなったソースに代わる新たなレシピも編み出されていない。なお、日本の短期決戦で重視されている“細かい野球”に関しては、ワールドシリーズで負けたDバックスは犠牲バントを5試合で5回決めたが、勝ったレンジャーズは0回。考慮の対象にすらなっていなかった。 それでは、他のスポーツではどうなのだろうか。例えば、今季のNBA王者となったのは開幕から本命視され、レギュラーシーズンも最高勝率だったボストン・セルティックス。過去10年でレギュラーシーズン1位のチームが優勝したのは、これで3度目だった。MLBも同じく10年間で3回だから、あまり変わらないように思えるかもしれない。 だが、同期間の優勝チームでレギュラーシーズン勝利数が5位以下だったのは、NBAでは21年のバックス(7位)のみ。MLBは14年ジャイアンツ(8位)、19年ナショナルズ(8位)、21年ブレーブス(12位)、23年レンジャーズ(6位)と4回も例がある。やはり野球では、最強とは言えないチームでも頂点を極める確率が高めなのだ。 これには、野球というスポーツの特性が関わっている。まず、絶対的エースがいても毎日は登板できない。7試合制のポストシーズンシリーズであればせいぜい2度、多くても3試合が精一杯で、残りの試合は格落ちの投手が投げるので、勝利の確率は下がってしまう。 攻撃でも、9人の打者が順番に打席に立つので、大チャンスでも最も頼りになる打者に回ってくるとは限らない。サッカーやバスケットボールなら、得点が欲しい場面ではポイントゲッターにボールを回し、大事なシュートを打たせることが可能だ。実際、セルティックスは今季のレギュラーシーズン勝率が.780もあった。MLBだと126勝に相当する数字であり、強いチームが順当に勝つ傾向が強いことを示している。 だが、野球ではそうはいかない。実力通りの結果が他の競技に比べて出にくく、波乱や番狂わせが起きやすいのだ。近年はプレーオフの出場枠が拡大したので、下克上が起きる確率は一層高まった。レギュラーシーズン勝率が両リーグ12位のブレーブスが世界一になった21年は、その最たるものだった。 それでは「所詮運でしかない」ポストシーズンは見るに値しないのか? 断じて違う。人々の記憶に残り、称賛を得るのは最後まで勝ち残ったチームだけなのだ。その栄誉を目指す、緊張感に満ちた戦いはペナントレースとは違う雰囲気に包まれる。このような試合に魅力がないわけがない。 シーズン最高勝率でも、ドジャースの世界一が約束されるわけではない。期待が高まっていればいるほど、敗れたときの落胆も大きいだろう。だが、むしろ予測とは異なる展開になってこそ、勝負事は面白いのではないか。そしてどこが勝つとしても、そのチームは間違いなく24年の王者である。なぜなら「運も実力のうち」だからだ。 ※『SLUGGER』2024年11月号掲載の記事を再構成 文●出野哲也 【著者プロフィール】 いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。