ドジャースは本当に“短期決戦に弱い”のか?――プレーオフと「運」の厄介な関係――<SLUGGER>
●大舞台で苦戦するチームはドジャースだけではない? ここで、ドジャース以外の強豪にも目を向けてみよう。ナ・リーグでは、ブレーブスも18年から6年連続で東地区を制している。しかし22年は101勝、昨年も104勝しながら、ドジャースと同じく2年とも地区シリーズで敗れた。逆にその前の21年は、88勝どまりだったのに世界一となった。ここ3年の得失点差は+134、+180、+231。最も戦力が整っていなかった年に頂点に立ったのだ。3年とも監督はブライアン・スニッカーなので、この結果にスニッカーの采配能力が影響しているとは考えづらい。 ブレーブスは90年代から2000年代にかけて、現在のドジャースと似たような批判に晒されていた。91年から05年まで14季連続地区優勝(94年はストのためポストシーズンが行われなかった)、それでいて世界一になったのは95年だけ。グレッグ・マダックス、トム・グラビン、ジョン・スモルツの3大エースに名三塁手チッパー・ジョーンズもいたのにこの結果とあって、ボビー・コックス監督の短期決戦での采配には、ロバーツ監督同様に疑問が持たれていた。 そのブレーブスを96、99年のワールドシリーズで倒したのはヤンキースだった。ジョー・トーリ監督の下、96年以降の5年間で4度世界一になるという“勝負強さ”を発揮したのだが、00年を最後にシリーズで勝てなくなった。戦力がダウンしていたわけではなく、02~04年、06~07年はレギュラーシーズン勝率1位だったが、03年を除いてワールドシリーズにすら出ていない。 90年代は短期決戦に強かった名将トーリは、00年代に入って急に采配能力が鈍り、凡将と化したのか? その可能性もゼロではないだろうが、ロバーツやコックスともども、「プレーオフは運次第」説を補強する材料と考える方がしっくりくる。 ●10月を勝ち抜くための「公式」は存在しない? 球界でもこうした考えを持っている人物がいる。アスレティックスの編成総責任者で、00年代前半に“マネー・ボール”で一世を風靡したビリー・ビーンだ。彼は以前、アスレティックスが毎年のようにプレーオフには進めても、ワールドシリーズに出られなかった点を問われて「私のチーム作りの手法はプレーオフ向きではない。けれども私の仕事は、プレーオフに進めるチームを作ることであって、その先は運任せなのさ」と答えたのだ。当時は単なる負け惜しみと受け止められたが、これは事実に近いのかもしれない。 では、ポストシーズンで勝ち抜くための秘訣は存在しないのだろうか。シンクタンクの『ベースボール・プロスペクタス(BP)』では、過去の優勝チームのデータを分析して「シークレット・ソース」なるものを提唱していた。考案者は、現在では大統領選などの選挙予測で有名人になっているネイト・シルバー。具体的には「強力なクローザー」「奪三振能力の高さ」「優れた守備力」の3要素が揃ったチームが、最も優勝の可能性が高くなるというもので、本誌でも紹介したことがある。 だが、昨年世界一のレンジャーズがこれに該当していたかと言えば、抑えのウィル・スミスは22セーブ、防御率4・40と頼りなく、ポストシーズンで代役を務めたホゼ・ルクラークも絶対的な存在ではなかった。何しろ、ワー―ルドシリーズ優勝の瞬間にマウンドにいたのはスミスでもルクラークでもなく、レギュラーシーズンで防御率5点台のジョシュ・スボーツだった。