「昔は木でギターを作っていた」と言わせないために。米ギターメーカーの革新的木材利用法
「なくなったら次の木材」ではないやり方に
テイラーの創始者でギター製作家でもあったボブ・テイラー氏は、こうした木材危機が大きな問題になる以前から、危機感を持っていたという。 「その大きなきっかけになったのが、2011年にアフリカのカメルーンに行ったときの出来事でした。カメルーンは、古くから家具や楽器などに使われてきたエボニー(黒檀)の産地で、世界中でエボニーの森が消えていくなか、合法的に輸出できる唯一の国です。そこでテイラーもカメルーンの木材加工工場と長く取引をしていたのですが、経営層が現地を訪れた際、多くの木材が無駄になっていることが判明しました」 そもそもエボニーは、幹の中心部が黒いものもあれば、クリーム色やマーブル状のものもあり、切ってみなければわからない。エボニーを伐採する際、黒色のものは10本に1本程度しかなく、硬さやサウンドに違いはないものの、黒以外は売り物にならないため、せっかく切ったものを廃棄していた。 「エボニーはまだまだたくさんありますが、今までと同じような使い方をしていけば、後世のギタービルダーたちは間違いなく、『昔は木でギターを作っていたんだよね』という会話をすることになる。こうボブが言ったのを、今でもはっきりと覚えています」 このまま黒いエボニーだけを選んで使用していけば、数年のうちに枯渇し、エボニーの国際取引ができなくなると感じたテイラーは、伐採したすべてのエボニーを、真っ黒なエボニーと同一価格で買い取ることを即決。クリーム色が混ざった、今までは価格がつかなかったエボニーを"スモーキーエボニー"と名付け、フラッグシップモデルに使用することを決めた。 「下位モデルや、目立たないところに隠して使うのではなく、ブランドの顔といえるギターにあえて使うことで、これまでの流れを変えることができると考えました。実際、大きな話題になりましたし、テイラーのようなメジャーなメーカーがやるからこそ意味があると思っています。今ではこの取り組みがエボニープロジェクトとして発展し、カメルーンのコンゴ盆地研究所と共同でエボニーの生態を研究しながら、2018年には植林も始めました」