「最後の◯◯戦士」を“引き受ける”意味 坂口智隆氏「絶対テロップがつく」…恩返しの一文
異なったユニホームで練習…実感した「あぁこれが球団合併か」
すぐに新チームに打ち解けた坂口氏も、1度だけ戸惑いを感じたことがあったという。それが合併後初めての秋の練習。「合併直後だったので、一緒のチームなのにユニフォームが別だったのは違和感ありましたね。近鉄とオリックス、2つのユニフォームで合同練習したんです。選手としては、やはりそういうところで球団消滅を実感したんじゃないでしょうか。僕も感じました。『あぁこれが球団合併か』って」。 2022年、ヤクルトでの引退セレモニーでは「近鉄最後の投手」で1年先輩の近藤一樹氏から花束を手渡された。何かと縁のある仲良しの近藤氏のことになると、坂口さんも頬が緩む。 「近ちゃんのことは高校生のときから知っていて、写真も撮ってもらっていたんです(笑)。近鉄の寮で僕の指導係をしてくれて、そこからずっとかわいがってもらっています。オリックスで一緒になって、ヤクルトも僕が行ったタイミングで来てくれたので、セレモニーは嬉しかったですね。近鉄ファンの方にも喜んでもらえたんじゃないかなと」 「最後の近鉄戦士」と呼ばれるようになった2020年以降を振り返ってもらうと「最初は僕でいいんかなと思いました」と謙遜する。「近鉄では1軍で8試合しか出ていないし、ファンの方とかベテランの選手に比べると、在籍年数が少ない分思い入れって少ないじゃないですか。それなのに試合出ているときには絶対テロップがつくので、それを背負ってしまっていいのかなとずっと思っていたんです。でももう最後は、球界に入れてもらった球団への恩返しを、僕はそのテロップを出すことしかできないのではないかと思うようになりました」プロ野球選手にしてくれた球団への恩返し、そして近鉄オールドファンへの恩返しの意味もあったという。 「近鉄ですごいエピソードや記録があるわけでもないので、そのテロップをテレビに映し続けるっていうのが、近鉄ファンへ僕が唯一できる恩返しかなと思ったので、自分が辞めると決めるまでは(テロップを)出し続けたいという気持ちがありました。球団が消滅したことで野球から離れてしまった近鉄ファンもいますし、複雑な思いで野球を見ているファンもいると思うんですよ。でも、『坂口は近鉄やったし』ってヤクルト戦を見てくれる人がいるのも知っていたので。そのテロップが出ることで、また野球っていうスポーツに触れてくれればなと」 近鉄バファローズという球団は時代の荒波に飲まれてしまったが、DNAはオリックス・バファローズに脈々と受け継がれている。わかりやすいのは応援歌だろう。近鉄時代から使用されているチャンステーマ「タオル」、「丑王」の『紅蓮の魂を 滾らせ』、「丑男」の『真紅と蒼の魂を 炎と燃やして攻めろ』という一節。坂口氏がその火を絶やすまいと灯し続けた猛牛魂は、たしかにファンのなかで生きている。
「パ・リーグ インサイト」編集部