考察『不適切にもほどがある!』8話。昭和の「異物」も世間に負ける
「いつも通り」ができない昭和の人たち
ここ数話のもうひとつの軸となっていたのが、キヨシ(坂元愛登)と不登校の友人・佐高(榎本司)、そのことを通じて距離を縮めるサカエ(吉田羊)と安森(中島歩)だ。キヨシをハブとしてクラスメイトたちが佐高の家に集うようになるに至って、佐高は「学校行ってみようかな」と一歩を踏み出す。しかし、安森はクラスを挙げて過剰な盛り上がりで迎え入れてしまい、佐高は不登校へと逆戻り。佐高を自然に受け入れられる日は、昭和のうちにやってくるのだろうか。 キヨシの振る舞いがいまの10代に備わっている令和の感覚であるならば、それは希望の持てる話だ。決して学校に行くことだけが普通ではないという理解が少しずつ進んで今に至っているのだとしたら、大きな進歩だろう。思えば、市郎は今回もSNSで倉持を中傷する相手にひとつずつレスをつけたり、街頭インタビューで答える女性に質問を投げかけたりと、とことん話し合おうとする。一方でキヨシは触れてほしくないところをそっとしておく、という形で佐高の心を開いた。どちらにもよさと欠点があり、大切なのは結局、相手をちゃんと見ることなのだろう。 安森の、教師としての完全に誤った対応にはうんざりしているのに、それはそれとして安森の自分に対する振る舞いにはときめいてしまう。そんなサカエのアンビバレンツな気持ちには妙なリアリティがあった。
驚きのキャスティングが続々と
NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019)で1964年の東京オリンピック実現に尽力した田畑政治を演じた阿部サダヲが、時を経て「東京オリンピック!?」と驚くのはちょっとした感慨があった。 なんといっても 8話では、小泉今日子の本人役の登場に驚かされた。宮藤官九郎✕小泉今日子といえば『あまちゃん』(NHK 2013)が思い浮かぶが、舞台が喫茶店であることもあって、『マンハッタンラブストーリー』(TBS 2003)の赤羽伸子も思い出さずにはいられなかった。他にもムッチ先輩の令和の姿として彦摩呂が、栗田をとりまく友人の一人として、八嶋智人の妻・宮下今日子が登場。それぞれ、クスリとさせられるキャスティングだった。 ムッチ先輩がタイムスリップするバスに乗れたのは、キヨシが顔認証を通ってバスのドアが開いた瞬間にキヨシを押しのけて乗ったという強引な技であったことが判明。これによって、6話で純子がバスに乗れたのも、顔が登録されている父と一緒だったからとわかった。未来に行ったことで自分の将来に思いを馳せる純子の運命は、このまま変わらないのだろうか。 ●番組情報 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS) 脚本:宮藤官九郎 演出:金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一 出演:阿部サダヲ、仲里依紗、吉田羊、磯村勇斗 他 プロデュース:磯山晶、勝野逸未、天宮沙恵子 主題歌:Creepy Nuts『二度寝』 ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
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