【中国の南シナ海軍事要塞の価値は500億ドル超】ハワイの米軍施設を超えるか、米シンクタンクが試算
南シナ海で最近最も激しい火種となっているのはフィリピン近海だ。衝突がエスカレートし、米国がフィリピン防衛にあたった場合、セカンド・トーマス礁から最も近い米空軍基地であるグアムのアンダーセン空軍基地までは約3000キロメートル(km)あり、嘉手納空軍基地までは約2250kmある。 中国にとっても海南島までは1290kmあるが、35億ドル以上の価値となる中国空軍基地があるミスチーフ礁まではわずか33kmだ。 インド太平洋軍司令官パパロ氏は「信頼性が高く決定的な戦闘力で紛争を抑止」するための「防衛産業基盤と防衛インフラへの投資」の強化の必要性を説いている。 * * *
中国の南シナ海島嶼戦力の意味
南シナ海の軍事施設や海南島の楡林基地について詳細に解説する記事はほかにもあるが、これらの価値を数値化する試みは珍しく、試算とは言え米国との比較や強化の程度を知る上で参考になる。 南シナ海ならびに海南島の楡林基地は、中国にとってなぜこれほど重要なのか。また、南シナ海の島嶼占領は中国の軍事態勢にとってどのような意味をもつのか。 第一に、南シナ海は、戦略原潜のための「要塞」となりうる。 中国の最初の潜水艦基地は1960年代末頃から70年代にかけて、黄海に面した青島の東北東20kmほどの姜各荘に建設された。ただしこの地域は水深が浅く、かつ韓国、日本に近いことから米国を含むこれら3カ国により探知されるリスクも高い。 そこで2000年代初頭から建設を開始したのが南シナ海の海南島にある東楡林潜水艦基地である。同島が面する南シナ海は十分な深度があり(平均深度1000m強)かつ無数の島嶼を抱え、島嶼に軍事施設を建設することで上空、海上を防護し、外部勢力の侵入も排除できる。南シナ海はこのような意味での「要塞」とすることのできる条件を備えており、中国が同基地を戦略第二撃能力たる晋級戦略原潜(Type-094)の基地としているのはそのためである。 なおType-094は推定射程7200kmの弾道ミサイルJL-2を搭載しているが、この射程では米本土攻撃のためには南シナ海から一旦外洋に出なければならない。これに対し現在建造中で2030年ころまでに完成が見込まれる次世代のType-096が搭載予定とされる弾道ミサイルJL-3は射程推定1万2000km以上で、南シナ海に居ながら米本土まで到達させることも可能となる。 このことは南シナ海を、晋級戦略原潜の配備ならびに活動の自由を確保し、他国の介入を排除できる「要塞」とすることの必要性を一層高めている。ちょうどロシアがオホーツク海やバレンツ海を、それぞれ太平洋艦隊や北洋艦隊所属の戦略原潜の活動のための「要塞」にしようとしてきたのと同じである。