大人気コスプレイヤー・さくらに聞く、“女装男子”になった理由「異性への変身願望は誰にでもある」
■コミックマーケットとコスプレ文化 12月30日~31日の2日間、日本最大級の同人誌即売会「コミックマーケット103」が東京ビッグサイトで開催された。筆者も過去に同人誌を制作してサークル参加したことが二度ほどあるのだが、コミケは同人誌即売会という枠を超え、特有の空間は唯一無二のものである。 【写真】クオリティ高い!『ウマ娘』や『セーラームーン』『ラブライブ!』など、女装コスプレーヤー、さくら氏の推しのキャラクターになった様々なコスプレ画像 なかでも毎回注目度が高いのが、コスプレである。全国からコスプレイヤーが会場に集い、人気のコスプレイヤーを撮影するための行列や、周りをぐるりと取り込む“リング”ができることもあるのだ。近年はコスプレ専門のイベントも開催され、撮影スタジオが各地に誕生する中、コミケでコスプレを行う魅力はどこにあるのだろうか。 今回は、12月30日に参加した“女装男子”であり、コスプレイヤー・オブ・ザ・イヤー2024のシャイニー(男性・女装部門)部門でグランプリに輝いた、コスプレイヤーのさくら氏(Xのアカウント@sakunyantter)に話を聞いた。 なお、女装男子といえば、「ウルトラジャンプ」で『女装男子はスカートを脱ぎたい!』の連載が始まるなど、漫画の題材にもなるほど注目を集めている。実際、さくら氏によると、コミケでも女装コスプレイヤーは増えているのだという。 ■コミケでコスプレをする魅力とは? ――さくらさんは今回のコミケで、どんなキャラクターのコスプレをしましたか。 さくら:『葬送のフリーレン』のフリーレンのコスプレをしました。僕は、アニメが始まる前から原作の漫画を読んでいて、ずっと好きだったのです。フリーレンはツインテキャラで見た目がロリだけれど、中身がちゃんとした大人の女の子で、凄く僕の好み。コスプレをしたいなと思っていましたが、僕は衣装の自作派ではないため、アニメにならないと衣装が手に入らないことも多くて難しかったんですよ。幸い、アニメ化で衣装が出たので、やるなら今だと思いました。 ――しかし、冬のコミケは寒さとの戦いですよね。僕もサークル参加をしたことがあるのでわかるのですが、同人誌を頒布する会場内だって寒い。ましてや屋外エリアはコスプレイヤーにとって過酷な環境ではないかと思うのですが。 さくら:そうですね。2020年のオリンピック以降は解放されていないのですが、会場の一つである防災公園は遮蔽物がないので、常に風が吹いていてめちゃくちゃ寒いんですよ。対して、夏はめちゃくちゃ暑い(笑)。冬はさらに海風も強いので、ウィッグがぐちゃぐちゃになる。あと、会場が広いので、知り合いと待ち合せるときに目印になるものがなく、お互いを探すのが大変です。 ――「池袋ハロウィンコスプレフェス(池ハロ)」など、コスプレイベントはたくさんあります。大変な環境であるにもかかわらず、コミケでコスプレをする醍醐味はどこにあるのでしょうか。 さくら:イベント自体の知名度が高く、参加者が多いのが一番の理由ですね。コスプレをやる以上はたくさんの人に見ていただきたいので、コミケの会場は気持ちがいいんですよ。オタク界隈に足を踏み入れた人なら大体わかるイベントというブランド力も、コミケにはあるのかなと。また、参加する知り合いも多いので、挨拶をしたり、終了後にオフ会をすることもできます。 ――コミケならではの特性は想像以上に多いんですね。 さくら:最近はメディアも多く取材に来ていますし、コスプレイヤーの注目度が高いんですよ。だから、メディアに出たいという理由で参加している人も多いようです。最近は芸能人の方も参加されていますからね。 ――ほかにコミケならではの興味深い点は、何かありますか。 さくら:コスプレイヤーのために男子更衣室と女子更衣室がありますが、男子更衣室から女の子(のキャラのコスプレ)が出てきて、女子更衣室からはイケメン(のキャラのコスプレ)が出てくる光景が見られることでしょうか。この独特のカオスな感じも、コミケの魅力です。そして、異性への変身願望は誰にもあるんだなあと思って見ています。 ■コスプレの醍醐味は“違う自分になれること” ――さくらさんが思うコスプレの魅力は、どんなところにあるのでしょうか。 さくら:女装が特にそうなのですが、違う自分になれること。そして、自分の推しキャラになれることでしょうか。僕が最初にコスプレをしたのは『美少女戦士セーラームーン』のセーラーマーキュリーでした。それから、女装の会員制のSNSで知り合った人に、コスカラ(コスプレカラオケ)に連れ出してもらったのを機にはまって、現在では衣装の数はキャラ別なら40キャラ以上、衣装そのものの数は80~100着くらいあると思います。 ――それは凄いですね。さくらさんが好んでコスプレをするキャラクターに、法則のようなものはあるのでしょうか。 さくら:背が低く、ツインテで、ピンク系が好きなキャラの属性なので、それらを好んで着ることが多いですね。『美少女戦士セーラームーン』のセーラーちびムーン、『カードキャプターさくら』のさくらちゃん、『スター☆トゥインクルプリキュア』のキュアミルキー、『【推しの子】』の有馬かなちゃん、『ウマ娘 プリティーダービー』のスマートファルコンがお気に入りです。 ――今年の池ハロでは、コスプレイヤー・オブ・ザ・イヤー2024のシャイニー(男性・女装部門)部門でグランプリを受賞されたそうですが、そのときにコスプレしたのは『ラブライブ!』の矢澤にこでしたね。 さくら:矢澤にこ、“にこにー”は大好きなんです。かわいいツインテ、かわいい見た目、基本的な立ち回りがコメディリリーフなのですが、言うところはしっかり言うという芯の強いところが最高です。コスプレイヤー・オブ・ザ・イヤー2024でも、にこにーのコスプレで賞をもらえたのは感無量です。 ――にこにーは僕も大好きなキャラなのですが、いつ頃好きになりましたか。 さくら:『ラブライブ!』がアニメ化される前からかわいいと思っていましたが、アニメを見てもっと好きになったのです。コスプレを始めた直後から、にこにーの衣装を買っています。最初は不慣れで完成度が低かったのですが、かわいくなるように研究を重ねてきました。 ――特に、にこにーのコスプレをする上でこだわっているポイントはありますか。 さくら:キャラデザの室田雄平さんのこだわりだと思いますが、にこにーは触覚(前髪のサイドの毛)が左右非対称なんですよ。うまく再現するのに苦労して、ウィッグは何回も新しくしました。もちろん、ポーズなどキャラ特有の仕草はアニメを何度も見て研究しています。衣装も“にこ”だけに“25”着以上ありますよ(笑)。音ノ木坂の制服からライブ衣装、さらにスクフェス(ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル)ではいろいろな衣装が出ているので、かなり買い込みました。 ■コミケを目標にするコスプレイヤーは多い ――僕もコミケに何度も足を運んでいますが、女装レイヤー(女装コスプレをする人のこと)は増えた印象を受けます。 さくら:コスプレイベントでも女装レイヤーは多いですし、コミケ会場でも数年前から増えてきたと思います。女装レイヤーは『東方Project』の人気が出て爆発的に増え、『艦隊これくしょん-艦これ-』によって定着したと思います。コミケの魅力って、男装も女装も普通に見られることですし、誰でも純粋に好きなキャラになりきることを楽しめるのが魅力です。 ――最近、ネットではコミケがこのままでは衰退するのではないか、という意見が上がっていました。さくらさんの話を聞くと、そんなことはなさそうですね。 さくら:海外からもコミケは注目されていますし、コスプレイヤーの観点では今後数十年は大丈夫だと思いますよ。コミケでコスプレするのを憧れにしている人もいますし、一種のステータスにもなっていますからね。 ■女装コスプレをしたい人にアドバイス ――女装コスプレは推しになれるという意味でも、凄く素敵だなあと思いますが、かわいさを研究するのも大変ですよね。 さくら:アイメイクでかなり印象は変わるので、いいなと思う人の写真を拡大してみたりして、研究しています。眉の手入れも重要です。体を絞るのも大事なのですが、最近、お酒ばかり飲んでいるので……不安ですね(笑)。 ――コスプレイヤー・オブ・ザ・イヤー2024で賞をもらったさくらさんから、女装レイヤーを始めてみたい人に対してアドバイスはありますか。 さくら:まず、衣装を買うところから始めましょう。買って、着てみることです。最初はうまくいかないことも多いと思いますが、回数を重ねればコツがつかめてくる。あとはイベントに参加して、人前に出ることも大事ですよね。自宅でコスプレをする宅コスも流行っていますが、イベントに出て、フォロワーさんと交流すれば間近でメイクも見れるし、「このキャラが似合うんじゃない?」とアドバイスももらえます。一歩踏み出して、イベントに行くことは大事だと思います。 ――ありがとうございました。最後に、今回のコミケを終えて、感想をお願いします。 さくら:フリーレンは初出しだったのでクオリティを上げられたかどうか心配でしたが、Xのフォロワーさん達と交流したり、とあるメディアさんに取材を受けたりと、2023年を楽しく締めくくることができました。ちなみに、今回の冬コミは例年とは違い、日が照っていて暑かったですね(笑)。
文=山内貴範