「『ちひろさん』の谷口役はいちばん 俺がやらなそうな役が来たなと」 若葉竜也が語る作品作りのこだわり
●同世代の監督と戦友になること
――続いて、いかにもイベント会社にいそうな、ズル賢い男・梅川を演じた『神は見返りを求める』。十年以上前から仲良しのムロツヨシさん、『愛がなんだ』以来の岸井ゆきのさんとの共演でした。 あの映画を観た人から「ああいう、“こすい”役をやらせたら、右に出る者はいないよね」って言われたんですけれど、じつは僕、ああいう役って初めてだったんですよ。だからこそ、やってみたいと思ったし、そんな評価をされてラッキーだと思いました。 吉田恵輔監督の「この俳優に、こういうことをやらせたい」っていう思いが、まったくあざとくないし、かましていないんですよね。そういうキャスティングができる監督はすごいって思いましたし、面白いっすよね。ムロさんと改めて芝居するのは、めちゃくちゃ恥ずかしかったですし、かなり緊張もしていたんですよ(笑)。 ――続いて、育児放棄した母親の男・山﨑役を演じた『ぜんぶ、ボクのせい』。後に『Winny』を撮る松本優作監督の商業デビュー作に出演するきっかけは? 若手監督というか、同世代の監督と戦友になることと、諸先輩方々に喧嘩を売っていくことは、俳優としていつか必要だという意識はどこかであったので、「若い監督と一緒にやりたい」っていう話はよくしていたんです。そういう意識があったうえの出演だったので、とりあえず現場を見に行くというか、「どうなんだ?」という気持ちでした。 実際、面白かったし、すごく才能を感じました。ちょっとクスクスってなっちゃうシーンを、はしゃいで撮らないんですよ。すごく淡々と、整合性を見ながら撮る判断力があるので、もっともっと上に行く人なんだろうなと思いました。守破離じゃないけれど、先人たちの知識をちゃんと踏襲しながら、壊していかなきゃいけない側の人間だと思うので、まだまだ若い監督たちと一緒にやると思います。
●駆け引きできる今泉力哉監督との関係性
――そして、今や名コンビといえる今泉力哉監督との『窓辺にて』と『ちひろさん』が続いて公開。『窓辺にて』では稲垣吾郎さん演じる主人公・茂巳の友人のマサ役を演じられました。 『窓辺にて』に関しては、今泉さんから台本を渡されて、「俺はこの役で考えているんだけど、どの役がやりたい?」と言われたんですよ。そのとき、今泉さんが想定した役だと、「今泉さんがこういう演出をして、自分はこういう対応するだろうな」っていう、想像の範疇で収まると思ってしまったんです。 それで僕的にはマサが魅力的に見えるっていう話をしました。現場で、今泉さんとお互い「これどうする?」って悩みそうな可能性がある方を選んだ感じです。実際、『ちひろさん』と比べると、大変でしたし(笑)。 ――そんな有村架純演じる主人公が勤める弁当屋の常連客・谷口役を演じられた『ちひろさん』はいかがでしたか? 谷口という役は今泉さんからピンポイントで来たんですが、その後に原作を読んだら「いちばん俺がやらなそうな役が来たな」と思ったんですよ(笑)。ある種、「これは試されているな」と思ったし、逆にあれを自分が咀嚼したときに、「どう出していくのか?」っていうことを、台本読みの段階から今泉さんが想像しそうなことを全部逆張りした感じですかね。 本当にギリギリのラインを狙いながら。今泉さんも「そう来るんだぁ」と笑っていましたけど、そういうやり取りができる監督は少ないので、面白い現場でしたね。僕が映画に出るとき、ほぼ全部の作品に共通していると思うんですけど、やっぱ寂しいとか、悲しいとか、弱いとか、そういう感情はやっぱりブレちゃいけないなと思ってやっていますね。