「宝塚って最高の場所」 卒業から10年…今も大切にする先輩からの言葉「つねに最後の気持ちで」
表現活動を通して体感することのできる奇跡のような瞬間「だからやめられない」
かつては「びっくりするぐらい声が高かった」という地声も、男役の声を練習している内にだんだんと低くなっていった。「研究していく内に、地を這うぐらい低い声を出せるようになりました」と笑みをこぼす。また、立ち方や座り方など、所作の1つ1つにも男役が染みついていった。 宝塚卒業後に女性の役を与えられた時には「どうやって歩くんだろう」「どうやって立つんだろう」と戸惑いを覚えることもあったという。しかし、「私は女性なんだから、どんなスタンスでも女性なんだ」と考えることで、徐々に自分らしい表現への手応えを感じていった。 今後も目の前の作品に全身全霊で挑むことが柚希のスタイルだ。 「宝塚でトップに立ってからの6年間は、100周年という目標があったので、モチベーションを高く保てていました。でも、退団後は終わりがないので、いつまでも続く気がして、モチベーションの保ち方に悩んでいたこともありました。でも、若い時に轟悠さんから言われた『これが退団公演だと思って毎回やりなさい』という言葉を思い出して、つねにこれが最後という気持ちで1つ1つの作品に臨むようになりました。 退団公演の時は、思ってもいない力が湧き出て、今までにない輝きが生まれるんです。これが最後だと思うと感謝があふれて、全てを出し尽くす。その気持ちを忘れずにどんな仕事にも向き合うようになりました」 表現活動を続けている中で、まれに奇跡のような瞬間が訪れるという。「全く力を入れずに役に入り込めて、それが見ている方のもとにスッと届いたと思える瞬間があるんです。万全の体調で挑んでも、毎回そこに到達するとは限らない。だからこそ、その瞬間を求め続けるんです。だから表現活動がやめられないんですよね」。 シャンソンと向き合うことで、原点に立ち返ったというこの1年。芸歴25年にして、新たな自分を発見し、「果てしない可能性」を感じることができた。「これからの自分の表現への期待が膨らんで楽しみになっています」。 □柚希礼音(ゆずき・れおん)6月11日、大阪府出身。1999年に初舞台。2009年、宝塚歌劇団星組トップスターとなり、14年には日本武道館での単独コンサートを実現。15年5月10日の『黒豹の如く/Dear DIAMOND!!』を最後に宝塚歌劇団を退団。以降、舞台やミュージカルを中心に活動。24年12月には『RUNWAY』、25年4月には『ホリデイ・イン』、同10月には『マタ・ハリ』を控える。また、25年1月19日には初シャンソンアルバム『Les Nouvelles Chansons』を発売。1月19日には東京・オーチャードホールで「柚希礼音リサイタル~REON et Chanson~」を開催する。
中村彰洋