映画『蛇の道』:主演・柴咲コウ、黒沢清監督が26年前の自作をフランスでリメイク
日仏映画交流史の最前線
オリジナル版は黒沢監督がOVの「復讐シリーズ」でタッグを組んだ高橋洋の脚本。今回はこれを基に、監督自身が「変えるところは変え、変えないところは変えない」との姿勢で新たなストーリーに組み直していった。この「変える、変えない」のバランスにこそ、リメイクの意味があった。自作であったがゆえに、熟考せずとも直感的に選び取ることができ、それでいて選択には必然性があり、絶妙なバランスが保たれたというのだ。 そこに、黒沢清の過去から現在へと続く映画術の真髄が読み取れるに違いない。フランスの風土、キャスト、スタッフだからこそ、新たに生まれた要素もあったろう。映画を撮る行為とは、その時々の条件下で、いかに臨機応変に必然を選び取り、結果に結びつけていく行動の連続であるかがより鮮明に理解できる。 オリジナルとリメイク、時代と場所を隔てた2つの『蛇の道』を観ることで、黒沢が26年の歳月をかけて築き上げていったものと、彼の根底に流れ続ける不変のもの、この両面を読み解く貴重な体験ができるはずだ。 もちろん、オリジナル版を完全に脇に置いたまま、リメイク版だけで十分に楽しめる。まずはよけいなことを考えずに音と映像に没入し、不穏な空気の張りつめる113分を体験したい。 そのあとで、フランスと日本の映画界を結ぶ稀有な交流の歴史に思いを馳せてみるのもよいだろう。数々の映画人たちが直接・間接を問わず、ほぼ1世紀にわたり、共に情熱を注ぎ、知を交換し、友情を育んできた中で、今回の『蛇の道』はその到達点の1つであり、さらに新たなアクションへと結びつく起点ともなりそうだ。
作品情報
出演: 柴咲 コウ ダミアン・ボナール マチュー・アマルリック グレゴワール・コラン 西島 秀俊 ヴィマラ・ポンス スリマヌ・ダジ 青木崇高 監督:黒沢 清 原案:『蛇の道』(1998年大映作品、脚本:高橋 洋) 脚本:黒沢 清 オレリアン・フェレンジ 撮影:アレクシ・カヴィルシーヌ 編集:トマ・マルシャン 音楽:ニコラ・エレラ 製作:CINEFRANCE STUDIOS KADOKAWA 製作国:フランス 日本 ベルギー ルクセンブルク 製作年:2024年 配給:KADOKAWA 上映時間:113 分 全国公開中!
【Profile】
松本 卓也(ニッポンドットコム) MATSUMOTO Takuya ニッポンドットコム海外発信部(多言語チーム)チーフエディター。映画とフランス語を担当。1995年から2010年までフランスで過ごす。翻訳会社勤務を経て、在仏日本人向けフリーペーパー「フランス雑波(ざっぱ)」の副編集長、次いで「ボンズ~ル」の編集長を務める。2011年7月よりニッポンドットコム職員に。2022年11月より現職。