映画『蛇の道』:主演・柴咲コウ、黒沢清監督が26年前の自作をフランスでリメイク
リメイク版の主人公はパリの日本人女医
2024年のリメイク版では、所変わってパリとその郊外が舞台。娘を殺された父親はアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)というフランス人だ。オリジナル版のアイデアを引き継いで、どこか頼りなさが漂う。香川と違って大柄だが、気は弱そうで、迷いを感じさせる。機敏さに欠け、不器用なタイプだ。
一方、彼を手助けする主人公は日本人で、今回も姓は「新島」のままだが名は小夜子(さよこ)、つまり女性だ。ここにオリジナル版と大きく異なるリメイク版最大のチャレンジがある。小夜子はパリの病院に勤める日本人の心療内科医という設定だ。これを柴咲コウが演じる。 柴咲は、パリへの赴任で心を病んだ患者(西島秀俊)を診察したり、日本にいる夫(青木崇高)と画面越しに会話したりする場面以外、すべてフランス人のキャストを相手にフランス語のセリフで通してみせる。抑揚をあまりつけず、短いシンプルなフレーズでつなぐ話し方が、小夜子の冷徹な人物像を効果的に表している。
それもあって、フランス映画に多い、いわゆる会話劇にはならないのだが、唐突に起こる出来事であっても、その背景を短い言葉のやりとりで十分に察することができる。取って付けたような説明にはなっていないところが巧みだ。さまざまな映画的なアイデアはオリジナル版を踏襲していて、その仕掛けの妙が魅力的な画面と人物たちのアクションを際立たせ、シンプルなストーリーながら観客を引き込んでいく。 オリジナル版では、娘の殺害にヤクザが絡んでいた。今回はある財団の存在が背後に浮かび上がり、その元会計係(マチュー・アマルリック)や元幹部(グレゴワール・コラン)らがアルベールと小夜子のターゲットとなる。 事件の背後に隠された闇の深さには、21世紀ならではの時代性が反映されている。こうして現代的になった新たな設定を背景に、登場人物たちの間の探り合いや駆け引きが、オリジナルになかった人間ドラマの深さをもたらす。