「ハヌマーン」とはどんな神様なのか、関連する映画が続々公開でにわかに脚光
不死身の熟練戦士に
ハヌマーンの物語として最もよく知られているのは、太陽を黄色く熟した果物と思い込み、天に昇って取ってこようとした話だろう。 『ラーマーヤナ』によると、ハヌマーンはその時、神々の王インドラが下した落雷によって顎を砕かれ転落死した。息子に対するインドラの仕打ちに激怒したヴァーユは、この世から空気を取り上げ、すべての生きものを苦しめた。 しかしヒンドゥー教の主神の1人である破壊神シヴァがハヌマーンを生き返らせると、ヴァーユは怒りを納め空気を戻した。自らの過ちに気づいたインドラは、雷をかたどった武器ヴァジュラのように強い体が欲しいと言うハヌマーンの願いを聞き入れ、さらにハヌマーンに雷への耐性を与えた。 他の神々もハヌマーンの願いに応え、火、風、水に対する耐性を与えた。不死も与えられたハヌマーンは、のちに『ラーマーヤナ』で描かれる、強く熟練した戦士へと成長していく。『ラーマーヤナ』には、戦場で負傷した兵士に薬草を届けるために、ハヌマーンがヒマラヤ山脈から山を丸ごと運んできたという話もある。 不死身の体と数々の業績を残しながらもハヌマーンは『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』『プラーナ』の中で、ラーマに献身的に尽くす謙虚で私利私欲のない性格の持ち主として描かれている。
リアルなサルとの関係は
ハヌマーンはよく赤い顔をしたサルとして描かれている。赤はラーマへの献身を表している。インド亜大陸原産で、聖なるサルとしてあがめられているハヌマンラングールの黒い顔と手足は、ハヌマーンが冒険中に負ったやけどを表しているという。 ヒンドゥー教では動物も信仰の対象とされている。たとえばガネーシャはゾウの頭を持つ豊穣と知恵の神だ。ナラシンハとハヤグリーヴァはそれぞれライオンの頭とウマの頭を持つヴィシュヌ神の化身で、神と動物の同一性を示すより顕著な例だろう。 「(ヒンドゥー教において)神と動物と人間の境は流動的です」と、英国ケンブリッジ大学でヒンドゥー学を教える上級講師アンクール・バルア氏は言う。「人間だけでなく、動物、植物など生きとし生けるものすべての中に神聖さがあるのです」
文=Aarohi Sheth/訳=三好由美子