【F1分析】マクラーレンはなぜモンツァで勝利を逃したのか? 読みきれなかった路面の改善と”パパイヤ・ルール”
■レッドブルのペースに見る、路面の改善
上のグラフは、上位勢の決勝レース中のラップタイムの推移をグラフ化したものである。この6台のうち5台はミディアムタイヤでスタートしたが、レッドブルのマックス・フェルスタッペンだけが唯一ハードタイヤでスタートした。 フェルスタッペンの最初のスティントを見ると、終盤(赤丸で示した部分)にはペースが落ちているのがよく分かる。 そのフェルスタッペンは第2スティントでもハードタイヤを選択。第2スティントの周回数は第1スティントとほぼ同等だったが、終盤(緑丸で示した部分)にペースが下落している傾向は見られない。 当然周回を重ねたことで燃料が消費され、車重が軽くなっていたという要素もあるだろうが、イゾラ氏が指摘するようなコースの改善、路面温度の低下という要素も、このペース推移の傾向に寄与しているはずだ。 実際に勝ったルクレールのペース推移を見ても、第2スティントは38周という長丁場となったにも関わらず、ペース下落の傾向はほとんど見られない。マクラーレンとしては「どうせルクレールのペースは落ちるだろう」と思っていたのかもしれないが、これではいかに最速のピアストリとて届かなかった。 ただ逆を言えば、先頭を走っているドライバーとしては、先に動くというのはセオリーに反するとも言える。本来ならばピアストリは、ルクレールの動きを見てから動けばよかったわけだ。それがセオリーであると言える。しかも、ピアストリが2回目のピットストップを決断した時、ルクレールは5.6秒も後方にいた。もしルクレールがアンダーカットを狙ってピットストップするのなら、その1周後にピットストップすれば、ポジションを明け渡すことはなかったはずだ。 ただマクラーレンとして難しかったのは、”パパイヤ・ルール”の存在かもしれない。もしピアストリがもう数周……1~2周でも遅れてピットストップしていれば、チームメイトのランド・ノリスにアンダーカットを許し、先行されていたはずだ。実際ピアストリが2回目のピットストップを終えてコースに復帰した時、ノリスは2.3秒後方に迫っていたのだ。 もしノリスがアンダーカットするような形となってしまえば、チーム内でのクリーンなバトルを目指した”パパイヤ・ルール”は成立し得ないし、新たな火種を生むことにも繋がりかねない。しかしそれで勝利をライバルにさらわれてしまっては、元も子もないのだが……。
田中健一