あなたの前進を妨げるひと言とは? 【原文】The One Word That is Holding You Back
クライアントの皆さんはたいてい、好ましくない現状に関してどうしたいのか、何を変えたいのかについてははっきりとしている。ただ、それからあの恐ろしい言葉を口にする。 でも(But)... 先日、私がコーチングのデモをした女性は、一言口にするたびに〈But〉を挟んで話していた。「自分がしたいこと、しなければならないことを話したあとで、必ず『でも』とおっしゃいますね。気づいてます?」と、私がその癖を指摘すると、彼女は気まずそうに目をそらし、それから私の方を見て、またも〈But〉と言いそうになった。彼女は笑みを浮かべ、笑い声をあげ、私に訊いた。「それで(And)、私は何を変えられるかしら?」 私は「代わりの言葉を見つけたようですね」と言った。 その後のやりとりは、彼女が〈But〉を口にしないように気をつけ、何度も〈And〉に言い直したりするので、途切れ途切れになった。彼女は言い直そうとするたびに笑顔を見せた。ものごとを制限する言葉である〈But〉に彼女が気づいたことや、会話を続けようとする前向きな気持ちもあったので、私たちは彼女が何を恐れているかを明確にし、大きなリスクではない今すぐ踏み出せる小さな一歩を見つけ、また彼女が自信をもって夢の実現に向かって進むためにこの視点がどう役立つのかを理解することができた。
〈BUT〉に潜む意味
〈But〉という言葉は、その人の脳がリスクを冒さないよう、気まずい思いをしないよう、あるいは失敗して挫折感を味わうことがないように素早くいろいろな理由を持ち出していることを示している。〈But〉の後に続くのはあなたの恐れや、あなたを制限する思いである。 脳の第一の目的は、あなたの安全と生命を維持することである。眠っているときも起きているときも、脳は常にあなたに害が及ばないか警戒している。 このため、自分の行動の結果を考えるときに、良いことよりも脅威や悪いシナリオばかりが気になってしまう。未来を考えるとき、この保護するレンズを通して見ることになる。すると脳は、想定される悪い事態を余すことなく列挙し、最悪のシナリオばかりを強調する。 最近話をしたクライアントは、もっと責任を持たせてほしいと上司に言うタイミングがつかめずにいた。その要求をしない言い訳が必ず出てくるのだ。そこで私は「あなたが自分の希望を話した場合、想定される最悪の事態は何ですか?」と訊いた。上司の仕事を奪おうとしていると思われたくないという。「仮に上司がそう思ったらどうなりますか?」と訊くと、彼女はまず、上司がそのように思うことはないだろうと認めた。そして、もしそう思ったとしても、うまく自分の要求をはぐらかすことができるからその点は心配ないと答えた。 最後に「一番恐れているのは何を失うことですか?」と質問してみると、次々と出てきた。「信用、今の仕事、上司に罪悪感を抱かせたら距離を置かれるかも......それにもっと責任を持つといっても私にはまだ無理かもしれないし」 言い訳が出尽くしたところで、私たちはそれぞれの現実性を吟味した。悪い結果になる可能性はどのくらいか? もしそうなったら、どうすればよいか? 結局のところ、私のクライアントは要求しない正当な理由を見つけられなかった。 人の前進を妨げる恐れは、ほとんどの場合、自分に対する敬意や信用、地位、存在感、好感度、愛情等々を失うのではないかという恐れである。屈辱感や気まずさを味わったり、自分が愚かに見えたり、間違えたり、拒絶されたりするのを避けたいのである。 その結果、取るべき行動を考えるよりも、行動しない言い訳に時間を費やすことになる。 〈But〉という言葉を使うと、リスクをあまりとらず、重要な変化を先延ばしにすることができる。人と親密にならず、提案に抵抗し、現状維持を正当化し、薬や無意味な娯楽で脳を麻痺させ、そのうち機会を発見し、多様な視点を持つ能力が低下していく。